2026年9月30日
最低賃金が上がるこの秋、あなたの会社の求人票は「最低賃金ギリギリ」に見えていませんか
「求人票の時給、去年のままになっていませんか」
毎年秋、地域別最低賃金が改定されます。2026年度は全国加重平均で1,177円、前年度から56円の引き上げです。引き上げ額は47都道府県すべてで54円〜65円です(厚生労働省、2026年9月3日発表)。
結論から言うと、この時期にやるべきことは3つです。掲載中の求人が改定後の最低賃金を下回っていないかを確認すること、「最低賃金+数十円」の時給が求職者からどう見えるかを考えること、そして既存のパートさんとの時給の逆転を防ぐこと。1つ目は法令の問題、2つ目と3つ目は採用と定着の問題です。
給与欄の書き方や給与水準そのものについては別の記事で扱いました。本記事は、年に1回の「最低賃金改定」をきっかけにした見直しに絞って解説します。
まず押さえたい:2026年度の改定は「いつから」が県ごとに違う
最低賃金は都道府県ごとに決まり、発効日も都道府県ごとに異なります。2026年度は、10月1日から12月2日までの間に順次発効する予定とされています。
| 項目 | 2026年度(令和8年度)の答申内容 |
|---|---|
| 全国加重平均額 | 1,177円(前年度1,121円) |
| 引き上げ額 | 54円〜65円(全都道府県) |
| 最高額/最低額 | 1,280円(東京都)/1,085円 |
| 発効日 | 2026年10月1日〜12月2日の間に都道府県ごとに順次 |
出典:厚生労働省「令和8年度最低賃金額答申」(2026年9月3日)。都道府県別の額は同ページ別添の一覧による
ここで注意したいのは、「10月1日に一斉に上がる」とは限らない点です。自県の発効日が11月や12月であれば、それまでは現行の額が適用されます。逆に、「まだ先だと思っていたら、もう発効していた」ということも起こりえます。自社の事業場がある都道府県の改定額と発効日は、厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」や都道府県労働局のページで必ず確認してください。なお、最低賃金は原則として、働く人が所属する事業場の所在地の額が適用されます。本社と店舗・営業所が別の県にある場合は、それぞれの額を確認する必要があります。
① 掲載中の求人が「改定後に最低賃金を下回る」リスク
求人票は、書いた時点のまま残り続ける
求人票は、一度掲載すると内容を見直さないまま何ヶ月も出し続けることがあります。春に「時給1,080円」で出した求人が、改定後の最低賃金を下回ったまま掲載され続けている——ということは起こりえますし、見落とされがちです。
最低賃金法では、最低賃金額に達しない賃金を定めた労働契約は、その部分が無効となり、最低賃金額と同じ定めをしたものとみなされます。つまり、求人票に書いた額にかかわらず、発効日以降は最低賃金以上を支払う必要があります。また、地域別最低賃金を支払わなかった場合の罰則も定められています。
求人票の記載そのものについても、職業安定法では求人情報を正確かつ最新の内容に保つことが求められています。また、ハローワークでは法令に違反する労働条件の求人は受理されない場合があります。改定後の最低賃金を下回る時給のまま求人を出し続けることは、実際に支払う額を正しく直したとしても、「求人と実際の条件が違う」状態をつくることになります。ハローワークや求人媒体での具体的な扱いは、それぞれの窓口・運営会社の案内を確認してください。
確認手順:掲載中の求人を棚卸しする
発効日までに、次の手順で確認しておくと安心です。
- 掲載中の求人をすべて洗い出す——ハローワーク、求人媒体、自社サイト、店頭の貼り紙、Indeedなどへの転載分も含めます。「出したことを忘れている求人」が一番危険です
- 時給の求人は、下限額と改定後の最低賃金を比べる——「時給1,100円〜1,300円」のように幅を持たせている場合は、下限額で確認します。研修期間中の時給を別に書いている場合は、その額も対象です
- 月給・日給の求人は、時間額に換算して比べる——月給制でも最低賃金は適用されます。月給を1ヶ月の平均所定労働時間で割って時間額を出します(計算方法は次の項で説明します)
- 発効日に合わせて書き換える——改定後の額を下回る求人は、発効日より前に修正するか、いったん掲載を止めます。媒体によっては修正の反映に時間がかかることもあるため、余裕を持って動きます
- 既存の従業員の賃金も同時に確認する——求人だけ直して、今働いている人の時給が改定後の額を下回ったままでは意味がありません
月給制の求人は「換算」で見落としやすい
月給制の場合、「月給18万円なら大丈夫だろう」と感覚で判断してしまいがちです。最低賃金との比較は、次のように計算します。
月給(対象となる賃金)÷ 1ヶ月の平均所定労働時間 ≧ 最低賃金(時間額)
このとき、比較の対象から外す賃金があります。代表的なものは次のとおりです。
- 時間外・休日・深夜の割増賃金(固定残業代を含む)
- 通勤手当、家族手当、精皆勤手当
- 賞与など、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
たとえば「月給20万円(固定残業代3万円・通勤手当1万円を含む)」であれば、比較に使うのは16万円です。所定労働時間が月170時間なら、時間額は約941円となり、2026年度はどの都道府県でも最低賃金を下回ります。基本給が低く手当で総額を積み上げている給与体系ほど、改定のたびに確認が必要です。
② 「最低賃金+数十円」は、求職者にどう見えるか
法令上の問題がなくても、採用の面では別の問題があります。
求職者は、求人サイトで同じ地域・同じ職種の求人を並べて見ています。そして、最低賃金が上がるこの時期は、求職者も「今年はいくらになった」というニュースを目にする機会が増えます。その中で、時給が最低賃金ちょうど、あるいは数十円上乗せしただけの求人は、次のように受け取られることがあります。
- 「法律で決まっているから払っている会社」に見える
- 毎年、最低賃金が上がった分しか時給が上がらない会社だと想像される
- 同じ条件なら、数十円高い隣の求人に応募される
もちろん、時給だけで応募先が決まるわけではありません。ただ、時給が最低賃金に近い求人ほど、「それ以外の魅力」を求人票で伝えなければ比較の土俵に上がりにくくなることがあります。
すぐに時給を上げられない場合にできること
「ギリギリに見える」ことへの対処は、時給を大きく上げることだけではありません。
- 昇給の仕組みを書く——「半年後に評価面談、時給+30円〜」「〇〇ができるようになったら+50円」など、上がる道筋を示すと「ずっとこのまま」という印象を和らげやすくなります
- 時給以外の条件を具体的に書く——シフトの融通、扶養内勤務への配慮、制服貸与、まかないなど、時給換算しにくい条件は求人票に書かないと伝わりません
- 仕事の中身を正直に書く——時給が同程度の求人が並ぶなかでは、「どんな仕事を、どんな人と、どう進めるか」が具体的な求人ほど選ばれやすくなることがあります
給与を上げずに採用力を上げる方法は、給与を上げなくても採用力は上げられる——コストをかけない採用改善の実践で詳しく扱っています。また、給与欄の書き方そのものは求人票の「給与欄」は伝え方で印象が変わるを、給与水準と採用の関係は「給料が低いから採れない」は本当かを参考にしてください。
③ 既存パートとの「時給逆転」を防ぐ
最低賃金の改定で起きやすいのが、新しく募集する人の時給が、長く働いているパートさんの時給と同じか、それを上回ってしまうという問題です。
たとえば、3年前に時給950円で入り、昇給を重ねて今は1,090円のパートさんがいるとします。改定後の最低賃金が1,100円になれば、この人の時給は法令上1,100円以上に上げる必要があります。そして新規募集も1,100円で出すと、3年働いた人と今日入った人の時給が同じになります。
これは法律上の問題ではありませんが、既存スタッフの納得感に影響しやすくなります。求人票はスタッフ本人や家族、知人も目にするものです。「新人と同じ時給」だと知ったベテランが辞めてしまえば、せっかく新しく採用しても人手は増えません。
時給表の見直し手順
- 全員の時給を一覧にする——氏名、勤続年数、担当業務、現在の時給を並べます
- 改定後の最低賃金を下回る人を洗い出す——この人たちは発効日から最低賃金以上に上げることが必須です
- 「最低賃金に届いたから上げる」だけで終わらせない——最低賃金を下回る人だけを引き上げると、勤続年数や経験による差が縮まったり、なくなったりします。最低賃金を下回らない人も含めて、差をどの程度残すかを決めます
- 新規募集の時給を、既存スタッフとの関係で決める——募集時給を先に決めるのではなく、既存スタッフの時給表のどこに位置づけるかで考えます
- 本人に伝える——時給の変更は、変更後の額と適用開始日を書面で伝えます。発効日と給与計算期間の区切りがずれる場合は、どこから新しい額になるかも明確にしておきます
毎年の改定のたびにこの作業をするのは手間ですが、一度「勤続年数・スキルに応じた時給表」をつくっておくと、翌年以降は表全体をずらすだけで済みます。給与の基準を社内外に示すことの効果は、給与テーブルを「公開」すると採用はどう変わるかでも触れています。
なお、試用期間中の給与を本採用後より低く設定している場合も、最低賃金は下回れません。例外となる減額の特例は、労働局長の許可を受けた場合に限られます。詳しくは試用期間の給料は下げてもいい?で解説しています。
まとめ
- 2026年度の地域別最低賃金は全国加重平均1,177円。発効日は10月1日〜12月2日の間で都道府県ごとに異なるため、自県の額と日付を厚生労働省・労働局のページで確認します
- 最低賃金を下回る賃金の定めは無効となり、発効日以降は最低賃金以上を支払う必要があります。掲載中の求人は、媒体・転載分も含めて棚卸しし、発効日までに修正します
- 月給制の求人は、固定残業代や通勤手当などを除いたうえで時間額に換算して確認します
- 「最低賃金+数十円」の時給は、求職者から「最低限しか払わない会社」に見えることがあります。昇給の道筋や時給以外の条件を求人票で具体的に示します
- 最低賃金を下回る人だけ上げると、既存パートとの時給逆転が起きやすくなります。時給表全体を見直し、新規募集の時給はその中で位置づけます
最低賃金の改定は、年に1回、求人票と時給表をまとめて見直せる機会です。「うちの求人票、どこから直せばいいかわからない」という場合は、うちの採用、どこが間違ってる?——読みながらわかるセルフ診断で自社の課題を洗い出すところから始めてみてください。
よくある質問
Q1. 発効日の前に出した求人で、発効日の後に採用した人の時給はどうなりますか?
求人票に書いた額にかかわらず、発効日以降に働いた分は改定後の最低賃金以上を支払う必要があります。求人票の額のまま採用すると、応募者が見た条件と実際の条件がずれるため、発効日をまたいで掲載する求人は早めに改定後の額以上に書き換えておくのが確実です。
Q2. 最低賃金の対象になる賃金に、手当は含まれますか?
精皆勤手当・通勤手当・家族手当、時間外や深夜の割増賃金、賞与などは、最低賃金との比較から除外されます。職務手当など毎月決まって支払われる手当は含まれる場合がありますが、判断に迷う場合は労働局や社会保険労務士に確認してください。
Q3. 派遣スタッフの最低賃金は、派遣元と派遣先のどちらの地域の額になりますか?
派遣労働者には、派遣先の事業場がある都道府県の最低賃金が適用されます。派遣を受け入れている場合は、派遣元と改定後の額を共有しておくと安心です。
→ 関連記事: 求人票の「給与欄」は伝え方で印象が変わる / 「給料が低いから採れない」は本当か——給与以外で選ばれた会社の話 / 試用期間の給料は下げてもいい?——同一労働同一賃金との関係と、事前に決めておくこと