2026年9月29日
試用期間の給料は下げてもいい?——同一労働同一賃金との関係と、事前に決めておくこと
「試用期間のあいだは、少し給料を抑えておきたい」
中小企業の経営者から寄せられることのある相談です。まだ戦力になるかわからない段階で、本採用後と同じ額を払うことに迷いがあるのは自然なことです。
結論から言うと、試用期間中の給与を本採用後より低く設定すること自体は、事前に条件を明示し、本人と合意したうえであれば一般的に可能とされています。一方で、入社後に一方的に下げることはできませんし、最低賃金を下回る設定は原則として認められません。「下げてもいいか」よりも、「どう決めて、どう伝えるか」のほうが実務上の論点になります。
試用期間そのものの活かし方は試用期間を「お試し期間」で終わらせない使い方で扱いました。本記事では、試用期間中の「給与額の決め方」に絞って解説します。
試用期間中の給与を下げる前提は「事前の明示」
試用期間中の給与を本採用後と別に定める場合、その内容は採用の入口から一貫して示しておく必要があります。押さえたいのは次の3か所です。求人票と労働条件通知書で本人に伝え、就業規則(賃金規程)で制度としての根拠を持たせる、という役割分担になります。
| 書類 | 書いておく内容 | 背景 |
|---|---|---|
| 求人票 → | 試用期間の有無・期間、試用期間中の給与額(本採用後と異なる場合) | →職業安定法に基づき、求人時に労働条件を明示することが求められています |
| 労働条件通知書(雇用契約書) → | 試用期間中と本採用後、それぞれの賃金額と切り替え時期 | →労働基準法により、賃金は契約締結時に書面等で明示すべき事項とされています |
| 就業規則(賃金規程) → | 試用期間中の賃金の定め、延長した場合の扱い | →常時10人以上の労働者を使用する事業場では就業規則の作成義務があり、賃金は必ず記載すべき事項とされています(労働基準法)。就業規則を作成している場合、その基準を下回る個別契約はその部分が無効になるため(労働契約法)、試用期間中の賃金を規程に定めておく必要があります |
大切なのは、3つの書類の内容がそろっていることです。特に就業規則がある会社では、賃金規程に試用期間中の賃金の定めがないまま労働条件通知書だけで低い額を示しても、減額部分が無効と判断されるおそれがあります。求人票には「月給22万円」とだけ書き、入社後に渡した労働条件通知書で初めて「試用期間中は20万円」と知らされた——という流れでは、本人にとっては後出しに映ります。求人票の給与欄での具体的な書き方は、求人票の「給与欄」は伝え方で印象が変わるも参考にしてください。
後から一方的に下げることはできない
労働条件を労働者に不利益な方向へ変える場合、原則として本人の合意が必要です(労働契約法)。「試用期間中だから」という理由があっても、入社時に合意した給与額を会社の判断だけで引き下げることはできません。
就業規則を変更して引き下げる方法もありますが、変更の必要性や不利益の程度などに照らして合理的であることが求められ、ハードルは低くありません。試用期間中の給与を別に設定したいなら、採用前の段階で決めておくのが基本です。
最低賃金を下回る設定は、許可を受けた場合の例外に限られる
試用期間中であっても、最低賃金法は適用されます。試用期間だからといって、地域別最低賃金を下回る給与を設定できるわけではありません。
最低賃金法には「試の使用期間中の者」について減額の特例がありますが、これは使用者が都道府県労働局長の許可を受けた場合に限って認められる例外措置です。許可を受けずに最低賃金を下回る額を支払えば、法違反になります。減額できる率にも上限が定められており、許可の可否は申請ごと・対象となる労働者ごとに個別に判断されます。制度があるからといって、自社でも使えるとは限りません。
実務上は、「試用期間中は最低賃金を下回ってもよい」とは考えず、最低賃金以上の範囲で設計するのが現実的です。特例の利用を検討する場合は、事前に労働局や社会保険労務士に確認してください。
「同一労働同一賃金」との関係を整理する
「試用期間中だけ給料を下げるのは、同一労働同一賃金に反しないのか」という疑問を持つ方もいます。ここは整理しておく必要があります。
同一労働同一賃金は、パートタイム・有期雇用労働法などに基づき、正社員と、パート・有期雇用・派遣などの非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差を禁止するルールです。同じ正社員が、試用期間中と本採用後とで給与額が異なるケースを直接規律するものとして整理されているわけではありません。
ただし、次のような場合は注意が必要です。
- 試用期間を有期契約として結んでいる場合——「最初の3ヶ月は契約社員、その後正社員」という形であれば、その期間の本人は契約形式上は有期雇用労働者として扱われ、正社員との待遇差が同一労働同一賃金の観点から問題になる可能性があります。なお、実質的に適性を見る目的の有期契約は、法的には期間の定めのない契約の試用期間と評価されることもあり、形式の選び方自体に注意が必要です
- 業務内容が本採用後とまったく同じ場合——法律の直接の対象でなくても、「同じ仕事なのに給料が違う」理由を本人に説明できない状態は、納得感を損ないやすくなります
つまり、同一労働同一賃金を理由に「試用期間の減額は一律に違法」とはいえない一方、「法律の対象外だから説明はいらない」ともいえません。自社の試用期間がどの契約形態で運用されているかを確認したうえで、判断に迷う場合は専門家に相談するのが確実です。
下げ幅はどう考えるか
試用期間中の給与の下げ幅について、法律で「何%まで」と決められているわけではありません(最低賃金を下回らないことが前提です)。そのため、会社として根拠を持って決める必要があります。考え方の軸は次の3つです。
- 業務内容や責任の違い——試用期間中は担当範囲を限定する、夜勤や単独業務を任せないなど、本採用後との違いがあれば、それが差の根拠になります。違いがないのに給与だけ下げると、説明がつきにくくなります
- 採用市場での見え方——求職者は求人票の給与欄を比較して応募先を選びます。試用期間中の額が大きく下がると、それだけで候補から外されることがありえます
- 本人の生活への影響——特に転職者の場合、前職より手取りが大きく下がる期間があると、入社そのものをためらう理由になりかねません
下げる額を決めるときは、「いくら浮くか」だけでなく、「その差額で応募や入社をためらわれるリスク」と比べてみることをおすすめします。そもそも試用期間中の給与を下げない、という選択も十分にありえます。
本採用時の切り替えは「いつ・いくらに」を明確にする
試用期間中の給与を別に設定した場合、本採用への切り替えの伝え方もあらかじめ決めておきます。
- 切り替え日を明確にする——「入社日から3ヶ月経過後に始まる最初の給与計算期間から」など、どの給与計算期間から本採用後の額になるのかを労働条件通知書に書いておきます
- 本採用時に書面で通知する——本採用が決まった時点で、新しい給与額と適用開始日を書面で伝えると、口頭のやり取りだけよりも行き違いが起きにくくなります
- 延長した場合の扱いを決めておく——試用期間を延長する場合、延長期間中の給与をどうするかが曖昧だとトラブルの種になります。就業規則や労働条件通知書で扱いを決めておきます
試用期間の延長や本採用拒否そのものの進め方については、試用期間中の本採用拒否・解雇の法的リスクと進め方で解説しています。
まとめ
- 試用期間中の給与を本採用後より低く設定すること自体は、事前に明示し合意していれば一般的に可能とされています
- 求人票・労働条件通知書で本人に明示し、就業規則(賃金規程)がある場合はそこにも試用期間中の賃金を定めておきます。規程の基準を下回る個別契約は、その部分が無効になりえます
- 入社後に一方的に下げることはできず、最低賃金を下回る設定は労働局長の許可を受けた例外に限られます
- 同一労働同一賃金は本来、正社員と非正規雇用の待遇差のルールです。ただし試用期間を有期契約で運用している場合などは注意が必要です
- 下げ幅は、業務内容の違い・採用市場での見え方・本人の生活への影響から考え、下げないという選択肢も含めて検討します
試用期間中の賃金は、就業規則や契約形態によって判断が変わる部分があります。制度を作る・見直す段階では、社会保険労務士などの専門家に一度確認しておくと安心です。求人票の書き方や採用全体の設計について迷う点があれば、こちらにもお気軽にご相談ください。
よくある質問
Q1. すでに試用期間中の社員の給与を、途中から下げることはできますか?
原則として、本人の合意なく一方的に下げることはできません。入社時に合意した条件が基準になるため、試用期間中の給与を別に設定したい場合は、次回以降の採用から求人票・労働条件通知書に明記する形で見直すのが基本です。
Q2. 求人票に書いていなかった場合、労働条件通知書で試用期間中の減額を示せば問題ありませんか?
求人票の内容と入社時の条件が異なる場合、その違いを本人に明示して説明することが求められています。ただ、応募時の情報と違う条件は、本人にとって後出しに映りやすく、入社前の辞退や早期離職につながることもあります。最初から求人票に書いておくのが確実です。
Q3. 試用期間中は時給制、本採用後は月給制にしてもいいですか?
事前に明示し、最低賃金を下回らないことを前提に、給与形態を変える設計をとる会社もあります。ただし、実質的に有期雇用や非正規雇用として扱っている場合は、同一労働同一賃金の観点も含めて整理が必要になるため、専門家に確認することをおすすめします。
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