2026年10月2日

「辞めたから採る」の前に。欠員補充、本当に必要ですか——求人を出す前の4ステップ判断

退職者の業務を書き出したカードを机で仕分ける経営者

「〇〇さんが辞めるから、同じ条件で求人を出しておいて」

退職の連絡を受けて、その日のうちに求人の準備を始める。心当たりのある方も多いのではないでしょうか。人が1人減れば、1人採る。一見、当たり前の判断に見えます。

ただ、その求人は「辞めた人の後任」を探しているのでしょうか。それとも「今の会社に必要な人」を探しているのでしょうか。この2つは、同じとは限りません。

結論から言うと、欠員が出たときは求人を出す前に、次の4ステップで判断すると、求人の出し直しや負担の偏りを防ぎやすくなります。

  1. 辞めた人の仕事を書き出す(業務の棚卸し)
  2. 業務を仕分ける(やめる・減らす・まとめる・振り分ける・残す)
  3. 振り分けた先の負荷を確認する
  4. それでも残る仕事で、採るかどうかを決める

この手順を踏んだ結果「やはり採用が必要」となることも十分ありえます。それで構いません。本記事は採用をやめる話ではなく、何も考えずに前任者と同じ求人を出す状態をやめるための話です。

なお、半年・1年先を見越した人員計画の立て方は「急募」が口癖になっている会社——採用を「計画」できていない本当の理由で扱っています。本記事は、計画外の退職が突然起きたときの個別判断に絞ります。


反射的な欠員補充で起きやすい3つのこと

「前任者のコピー」を探してしまう

前任者と同じ求人票を出すと、求める人物像も前任者が基準になります。しかし前任者の担当業務は、長年の経緯で積み上がったものです。本人の得意分野に合わせて仕事が寄っていたり、誰も引き取らなかった雑務が集まっていたりします。

その「寄せ集めの業務」をまるごとこなせる人を探すのは難しく、条件が多すぎて応募が来ない、来ても「全部はできない」で不採用——という状態に陥りやすくなります。

不要になった業務まで引き継がれる

退職は、その人の仕事を見直す数少ない機会です。「昔からやっているから」続いていた作業も、後任が来てしまえばそのまま引き継がれ、また何年も続きかねません。見直すなら、後任が決まる前が一番やりやすいタイミングです。

焦りが判断を鈍らせる

「早く埋めないと現場が回らない」という焦りは、選考の判断にも影響します。欠員の焦りで採用基準が緩んでしまう仕組みは「せっかく来てくれたのに」で採用基準が緩んでいませんかで詳しく解説しています。求人を出す前に判断の時間を取っておくと、選考に入ってからの焦りも和らぎやすくなります。


ステップ1:辞めた人の仕事を書き出す

最初にやるのは、退職者が担当していた業務の一覧づくりです。できれば本人が在籍しているうちに、本人と一緒に書き出してください。 退職後に周囲が推測で作ると、「実はあの人がやっていた作業」が抜け落ちやすくなります。

書き出す項目は、次の5つで十分です。

業務 頻度 時間の目安(週あたり換算) 他にできる人 備考
請求書の発行・送付  →月1回  →約0.5時間(1回2時間)  →社長  →会計ソフトで発行
電話・来客対応  →毎日  →8時間  →全員(交代で可)  →午前に集中
備品の発注  →週1回  →1時間  →いない  →発注先リストは本人のPC内
月次の売上集計表づくり  →月1回  →約0.75時間(1月3時間)  →いない  →会議資料用
出荷伝票の作成  →毎日  →5時間  →現場リーダー  →繁忙期は倍増

※架空の事務職の例です。月1回の業務は、1回あたりの時間をおおよそ4で割って週あたりに換算しています。

ポイントは「時間の目安」と「他にできる人」の2列です。時間は単位をそろえて(この例では週あたり)書いておくと、あとで合計しやすくなります。時間がわかれば振り分けたときの負荷が見え、他にできる人がいない業務は、その人に依存していた業務だとわかります。

退職の理由を聞く場があれば、業務量や偏りについての声も拾っておくと、次のステップで役に立ちます(退職者ヒアリングを次の採用に活かす方法)。


ステップ2:業務を仕分ける

一覧ができたら、業務を1つずつ次の5つに仕分けます。

仕分け 判断の問い 例
やめる  →やめたら誰が困るか? 困る人がいないなら不要  →誰も見ていない会議資料の作成
減らす  →頻度や手間を下げられないか?  →週次の集計を月次に、紙の転記をやめて共有ファイルに直接入力
まとめる  →他の人の似た作業と一本化できないか?  →部署ごとにしていた備品発注を1人にまとめる
振り分ける  →今いるメンバーに移せないか?  →電話対応を当番制にする
残す  →上のどれもできない業務  →専門知識が必要な業務、量が多く移せない業務

まず「やめる」「減らす」から検討するのがコツです。いきなり「誰に振り分けるか」から考えると、仕事の総量が変わらないまま、残ったメンバーに負担が移るだけになります。

先ほどの例でいえば、月次の売上集計表は「会議で実際に使われているか」を確認する価値があります。使われていなければやめる、使われていても会計ソフトの出力で代用できれば減らせます。

なお、業務の一部を外部のサービスや業者に任せる方法も、選択肢の1つです。ただし本記事の判断手順では、まず社内で「やめる・減らす・まとめる・振り分ける」を検討し、それでも残る業務について採用か外部かを比べる順番をおすすめします。社内の見直しを飛ばすと、不要な業務まで外に出すことになるためです。


ステップ3:振り分けた先の負荷を確認する

「振り分ける」に仕分けた業務は、受け取る側の負荷を必ず確認します。ここを曖昧にすると、欠員補充をしなかった結果、残ったメンバーが疲れて次の退職者が出るという、本末転倒の事態になりかねません。

確認したいのは次の4点です。

  • 時間が足りるか:ステップ1の「時間の目安」を合計し、受け取る人の今の業務量に上乗せしても回るか。恒常的な残業で吸収する前提なら、それは振り分けではなく負担の押し付けです。そもそも時間外労働をさせるには36協定の締結・届出が必要で、協定で定める時間にも法律上の上限があります(原則は月45時間・年360時間。厚生労働省「時間外労働の上限規制」)
  • 一時的か、恒常的か:「後任が決まるまでの3か月」なのか「今後ずっと」なのかを、本人に明確に伝える
  • 評価や処遇に反映するか:担当業務が増えるなら、評価や手当で報いる方法を検討する。何も変わらないまま仕事だけ増えると、不満が溜まりやすくなります
  • 本人が納得しているか:一方的に割り振らず、受け取る側の意見を聞く。「この作業はこう変えれば楽になる」という改善案が出てくることもあります

振り分けで回せる見込みが立ったら、期間を決めて試すのが現実的です。たとえば「2か月やってみて、残業が増えすぎたら採用に切り替える」と決めておけば、無理な状態がずるずる続くのを防げます。


ステップ4:それでも採るべきケースを見極める

ステップ1〜3を経ても業務が残るなら、採用を検討するタイミングです。次のいずれかに当てはまる場合は、迷わず採用に進んで構いません。

  • 残った業務量が、既存メンバーで吸収できる量を超えている(振り分けると恒常的に残業が増える)
  • 専門知識や資格が必要な業務が残っている(社内に代われる人がいない)
  • 顧客対応や品質に直結する業務で、手薄にするリスクが大きい
  • 事業を伸ばす予定があり、今の人数ではそもそも足りない(欠員補充というより増員の判断)

逆に、仕分けの結果「残す」業務がわずかしかないなら、フルタイムの正社員ではなく、短時間のパートで足りる可能性もあります。

採るなら「前任者と同じ求人」は出さない

採用に進む場合も、4ステップの作業は無駄になりません。「残す」に仕分けた業務こそが、次の人に本当にお願いしたい仕事だからです。

前任者の求人票を使い回すのではなく、仕分け後の業務をもとに、仕事内容と求める人物像を書き直してください。業務が絞られている分、求人票の仕事内容は具体的になり、応募者にとっても「自分にできるか」を判断しやすくなります。どんな人を採りたいかを言葉にする方法は採用基準を「言語化」するが参考になります。


まとめ

  • 退職者が出たとき、前任者と同じ条件で反射的に求人を出すと、「寄せ集めの業務をこなせる人」を探す難しい採用になりやすい
  • 求人を出す前に、①業務の書き出し、②仕分け、③振り分け先の負荷確認、④採るかどうかの判断、の4ステップを踏む
  • 仕分けは「やめる」「減らす」から考える。いきなり振り分けると、残ったメンバーに負担が移るだけになる
  • 振り分けるなら、時間・期間・処遇・本人の納得を確認し、期間を決めて試す
  • 採用に進む場合も、「残す」に仕分けた業務をもとに求人票を書き直す

欠員は、仕事の中身を見直す数少ないきっかけです。そもそも欠員が出るたびに慌ただしくなる状態から抜け出したい場合は、「採用が後手に回る会社」に共通する社長の思考パターンもあわせて読んでみてください。自社の採用全体のどこに弱点があるかを知りたい方は、うちの採用、どこが間違ってる?——読みながらわかるセルフ診断から始めるのがおすすめです。


よくある質問

Q1. 退職まで時間がなく、業務の書き出しをする余裕がありません。
全業務を細かく書き出せなくても、「毎日やっていること」「月に1回だけやること」「その人しかできないこと」の3つだけでも本人に聞いておいてください。特に月1回や年1回の業務は、本人が辞めた後に気づきやすく、あとから困りやすい部分です。

Q2. 求人を出すのが遅れると、その分だけ採用も遅れませんか?
遅れる可能性はあります。ただ、業務量にもよりますが、4ステップは数日〜1週間程度を目安に進められることもあります。前任者と同じ条件の求人を出して応募が来ず、条件を見直して出し直すことになれば、そのほうが時間がかかります。並行して進める場合も、少なくとも求人票の仕事内容は仕分けの結果を反映してから出すことをおすすめします。

Q3. 残ったメンバーに「人を増やしてほしい」と言われたら?
その声は、ステップ3の負荷確認の重要な材料です。「採らない」と決めつけず、どの業務がどれだけ負担になっているかを具体的に聞いてください。業務量の根拠がそろえば、採用の判断もしやすくなります。

Q4. 振り分けで回っていたのに、数か月後に限界が来ました。
期間を決めて試した結果であれば、それは判断の失敗ではなく、採用が必要だという確認ができたということです。その時点で、仕分け後の業務をもとに求人を出してください。

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