2026年11月8日
就業規則が10年前のまま?新しい人を迎える前に見直したい3か所
久しぶりに求人を出すことになり、入社書類をそろえようと棚を開けたら、表紙が日焼けした就業規則が出てきた。最後に手を入れたのがいつだったか、すぐには思い出せない——従業員30人前後の地方の会社では、珍しくない場面です。日々の仕事は回っているので、就業規則を読み返す機会はほとんどありません。
困るのは、新しい人が入るときです。求人票には「土日休み」と書いたのに、就業規則には土曜出勤の定めが残っている。面接で「試用期間は3か月」と話したのに、規則には6か月と書いてある。こうしたズレは、普段は誰も気にしませんが、新しく入った人が書類を読み比べたときに、はっきり表に出ます。
結論から書きます。就業規則が古いまま人を迎えるなら、全面改訂より先に「試用期間」「労働時間と休日」「賃金の決め方」の3か所が、今の実態・求人票・労働条件通知書と一致しているかを点検してください。 この3か所は、採用のときに必ず説明する項目で、食い違うと入社後の信頼を損ねやすいからです。この記事では、点検の順番と、直したあとの手続き、入社時の説明への使い方を整理します。規則の具体的な文言や変更の可否は、社会保険労務士などの専門家に確認してください。
なぜ「採用の前」に就業規則なのか
就業規則は、会社と社員の共通のルールブックです。そして、採用の場面では次の3つの書類が並びます。
| 書類 | 主な役割 | 応募者・新入社員から見ると |
|---|---|---|
| 求人票 | 募集時に労働条件を示す | 最初に読む「約束の入口」 |
| 労働条件通知書(雇用契約書) | 採用時に個別の条件を書面で明示する | 自分の条件として手元に残る |
| 就業規則 | 会社全体の労働条件・ルールを定める | 入社後に「本当はどうなのか」を確かめる資料 |
ここで押さえておきたいのが、労働契約法の2つの条文です。
- 第7条:合理的な労働条件を定めた就業規則を周知させていた場合、個別に細かく決めていない部分は、就業規則の労働条件が契約の内容になる
- 第12条:就業規則で定める基準に達しない労働条件の契約は、その部分が無効になり、就業規則の基準による
つまり、就業規則に古い条件が残っていると、それが「会社の基準」として扱われる可能性があります。たとえば規則の手当や休日の定めが、労働条件通知書より社員に有利な内容のまま残っていれば、規則の側に引き上げられることがあり得ます。どの規定がどう扱われるかは個別の判断になるため、断定はできません。ただ、「規則は古いだけで、実際は通知書どおり」とは言い切れないことは、知っておく価値があります。
作成・届出の義務がある会社とない会社
労働基準法第89条では、常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければならないとされています。変更したときも同様です。人数にはパートタイム労働者や有期契約の人も含まれ、会社全体ではなく事業場(本社・営業所など)ごとに数えます。作成・変更の際は、労働者の過半数代表者などの意見を聴き、意見書を添えて届け出ます(同法第90条)。
10人未満の事業場には作成の義務はありません。ただし、作ってある場合は、労働契約法第7条・第12条の「就業規則」に含まれると説明されています。「うちは小さいから関係ない」と考える前に、作ってあるかどうかを確かめてください。
点検を始める前に、「今の版」を確かめる
見直しの前に、意外と時間がかかるのが「どれが最新なのか」の確認です。古い会社ほど、改訂版・下書き・パソコンのファイルが混在しています。
- [ ] 最新版の就業規則(本則)がどれか、日付で特定できる
- [ ] 賃金規程・パートタイマー就業規則など、別規程の有無と最新版が分かる
- [ ] 10人以上の事業場なら、労働基準監督署の受付印がある控え(または電子申請の記録)がある
- [ ] 社員がいつでも見られる場所に置いてある(掲示・備え付け・書面交付・社内パソコンでの閲覧など)
最後の項目は大切です。労働基準法第106条は、就業規則を労働者に周知することを求めています。金庫の中にしまってあるだけでは、周知とはいえない可能性があります。労働契約法第7条の効果も、周知が前提です。
見直し1か所目:試用期間
試用期間は、採用のたびに面接で話し、労働条件通知書にも書く項目です。だからこそ、規則とのズレが見つかりやすい場所でもあります。
| 点検する項目 | よくあるズレ | ズレたままだと |
|---|---|---|
| 期間の長さ | 規則は6か月、面接と通知書は3か月 | どちらが正しいのか、本人が判断できない |
| 延長の有無と条件 | 規則に延長の定めがないのに「延長します」と伝える | 延長の根拠を説明しにくい |
| 本採用しない場合の扱い | 「試用期間中はいつでも解雇できる」と書いてある | 実際はそうではないため、誤解を生む |
| 試用期間中の賃金 | 規則と通知書で金額や手当の扱いが違う | 労働基準法第12条の問題になり得る |
注意したいのは、「試用期間中だから自由に辞めてもらえる」という古い書き方です。労働基準法第21条では、試用期間中の人でも14日を超えて引き続き使用された場合は、解雇予告などの規定が適用されるとされています。本採用拒否の考え方は、試用期間中に「これはダメだ」と思った社員への本採用拒否・解雇の法的リスクと進め方で詳しく整理しています。
試用期間中の給与を本採用後と分けているなら、その金額の決め方が規則・通知書・求人票でそろっているかも確認してください。考え方は試用期間の給料は下げてもいい?——同一労働同一賃金との関係と、事前に決めておくことにまとめています。
見直し2か所目:労働時間と休日
始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇は、就業規則に必ず書かなければならない事項(絶対的必要記載事項)です。そして、会社の実態がいちばん変わりやすい場所でもあります。
実態と比べる3つの視点
- 始業・終業と休憩:規則は「8時30分〜17時30分、休憩60分」。実態は「8時始業、昼休み45分」になっていないか
- 休日:規則は「日曜・祝日・会社が定める日」。実態は会社カレンダーで土曜の出勤日が決まっていないか。求人票の「年間休日」の数字と、カレンダーの日数が合っているか
- 勤務の形:交替制やシフト制、1か月単位・1年単位の変形労働時間制を実際に使っているのに、規則にその定めがない(または逆に、使っていない制度の定めが残っている)
法律上の休日の最低基準は「毎週1回、または4週間に4日以上」です(労働基準法第35条)。ただ、採用で問題になるのは最低基準より、求人票に書いた休日と規則・カレンダーが一致しているかです。求人票の休日の書き方は、「年間休日105日」は少ないのか。求人票の休日表記で損をしない書き方を参考にしてください。
変形労働時間制は、規則への定めのほか、労使協定の締結・届出などの手続きが必要な場合があります。制度の要件は種類ごとに違うため、使っている・使いたい場合は、専門家に確認してから規則を直してください。
見直し3か所目:賃金の決め方
賃金の決定・計算・支払の方法、締切りと支払の時期、昇給に関する事項も、絶対的必要記載事項です。賞与や退職金は、制度を設けている場合に書く事項(相対的必要記載事項)とされています。
| 点検する項目 | よくあるズレ |
|---|---|
| 手当の種類と支給条件 | もう払っていない手当が規則に残っている/新しく始めた手当が規則にない |
| 締め日・支払日 | 経理の都合で変えたのに、規則は昔の日付のまま |
| 昇給 | 「毎年4月に昇給する」と書いてあるが、実際は業績次第で見送る年がある |
| 賞与 | 「年2回支給する」と言い切っているが、実際は出ない年もある |
| 割増賃金 | 計算の方法や率が、今の運用と合っているか確認していない |
賃金は、ズレたときの影響が大きくなりやすい項目です。規則に「支給する」と書いてある手当を払っていなければ、第12条との関係で、支払いを求められる可能性があります。逆に、実態に合わせて規則を引き下げる場合は、後で触れる不利益変更の問題になります。どちらの方向に直すにしても、金額にかかわる変更は専門家に相談してから進めてください。
昇給の書き方は、求人票の表記ともつながっています。求人票の「昇給」欄の書き方——書き方次第で応募数が変わる理由もあわせてご覧ください。
直すときの手続きと、気をつけたいこと
3か所を点検してズレが見つかったら、直し方を決めます。10人以上の事業場で規則を変更する場合の流れは、おおむね次のとおりです。
| 順番 | やること |
|---|---|
| 1 | 変更案をつくる(どの条文を、どう直すか) |
| 2 | 労働者の過半数で組織する労働組合、ない場合は過半数代表者の意見を聴く |
| 3 | 意見書を添えて、所轄の労働基準監督署長に届け出る |
| 4 | 変更後の規則を社員に周知する |
過半数代表者は、管理監督者でないこと、投票や挙手など民主的な方法で選ばれていることなどが求められます。社長が指名した人では要件を満たさないことがあるので注意してください。
気をつけたいのは、社員にとって不利になる方向の変更です。労働契約法第9条・第10条では、合意なく就業規則の変更で労働条件を不利益に変えることは原則としてできず、変更が合理的で周知されている場合に限って認められる、と整理されています。合理性は、不利益の程度や変更の必要性などの事情から判断されます。「古い規則のほうが手厚かったので、実態に合わせて下げる」という変更は、この問題にあたる可能性があります。進め方は、必ず専門家に確認してください。
なお、厚生労働省は「モデル就業規則」を公開しています。たたき台として参考になりますが、厚労省自身も事業場の実態に合わせるよう求めており、そのまま写すものではありません。
入社時の説明にどう使うか
規則を点検したら、採用の場面で使えるようにします。目標は「全部を説明する」ことではなく、新しく入った人が「どこを見れば分かるか」を知っている状態にすることです。
- 労働条件通知書の各項目に、対応する就業規則の条文番号を添える(例:「休日:会社カレンダーによる。詳細は就業規則第○条」)
- 入社初日に、就業規則の置き場所(またはファイルの場所)を見せる
- 試用期間・休日・賃金の3か所だけは、口頭でも説明する
入社初日の段取りは、「初日の段取り」で印象は変わりやすい——入社後1週間の受け入れプログラムの作り方の流れに組み込むと、説明の漏れが減ります。2024年4月からは、労働条件の明示事項に就業場所・業務の「変更の範囲」なども加わっています。求人票と通知書の明示ルールは求人票通りに人を雇えていますか?2024年法改正で厳格化された「労働条件明示」のズレで確認できます。
チェックリスト(求人を出す前に)
- [ ] 就業規則の最新版と、別規程(賃金規程など)の最新版を特定した
- [ ] 社員がいつでも見られる場所に置いてある
- [ ] 試用期間の長さ・延長・本採用しない場合の扱いが、面接の説明・通知書と一致している
- [ ] 始業・終業・休憩の時刻が実態と一致している
- [ ] 休日の定めと会社カレンダー、求人票の年間休日がそろっている
- [ ] 使っている勤務制度(シフト・変形労働時間制など)が規則に書かれている
- [ ] 手当・締め日・支払日・昇給・賞与の書き方が実態と一致している
- [ ] ズレの直し方(規則を直す/運用を直す)を決め、不利益変更にあたるか専門家に確認する予定を入れた
- [ ] 10人以上の事業場なら、意見聴取・届出・周知の段取りを確認した
半分以上にチェックが入らないなら、求人を出す前に一度、3か所だけでも整えておくと、入社後の説明がずっと楽になります。
よくある疑問
Q. 社員は8人です。就業規則は作らなくてもいいですか?
常時10人以上の事業場でなければ、作成・届出の義務はありません。ただし、パートや有期の人も人数に含めて数えます。また、義務がなくても、休日や賃金のルールを文書にしておくと、入社時の説明がしやすくなります。作った場合は労働契約法の「就業規則」として扱われると説明されているため、実態と合っているかの点検は同じように必要です。
Q. 規則と労働条件通知書が違っていたら、どちらが優先しますか?
一般的には、個別に合意した内容が優先しますが、就業規則の基準に達しない部分は無効となり、就業規則の基準によるとされています(労働契約法第7条・第12条)。どちらが社員に有利かで扱いが変わるため、具体的な判断は専門家に確認してください。
Q. 実態に合わせて規則を直すだけなら、社員の同意はいりませんか?
社員にとって有利な変更や、中身が変わらない表現の整理なら、大きな問題になりにくいと考えられます。不利益になる変更は、労働契約法第10条の合理性などが問われます。意見聴取・届出・周知の手続きとは別の論点なので、専門家に確認してください。
Q. モデル就業規則をそのまま使ってもいいですか?
厚生労働省のモデル就業規則は規程例で、各事業場の実態に合わせて作るよう示されています。そのまま使うと、自社の実態と異なる条件を約束してしまうおそれがあります。たたき台として使い、3か所を中心に自社の実態と照らし合わせてください。
Q. 全面的に作り直したほうがいいですか?
時間と費用をかけられるなら、全面的な見直しも選択肢です。ただ、採用を控えているなら、まず採用と直接ぶつかる3か所を優先する方が現実的です。法改正への対応など、ほかの項目は専門家と相談しながら計画的に進めてください。
まとめ
- 就業規則が古いまま人を採ると、求人票・労働条件通知書とのズレが入社後に表に出やすい
- 就業規則の基準に達しない契約はその部分が無効になり、規則の基準によるとされている(労働契約法第12条)
- 全面改訂の前に、「試用期間」「労働時間と休日」「賃金の決め方」の3か所を実態と照らし合わせる
- 常時10人以上の事業場は、作成・変更時に意見聴取・届出が必要。どの規模でも、作った規則は周知する
- 社員に不利になる方向の変更は、合理性が問われる。金額にかかわる変更は特に専門家に確認する
- 入社時は、通知書に条文番号を添え、規則の置き場所を見せ、3か所は口頭でも説明する
就業規則と求人票・労働条件通知書のどこがズレているか、一人で読み比べるのは骨が折れる作業です。採用を控えて点検の進め方に迷ったら、お気軽にご相談ください。御社の今の規則と採用の書類を並べて、見直す順番を一緒に整理します。
→ 関連記事: 試用期間の給料は下げてもいい?——同一労働同一賃金との関係と、事前に決めておくこと / 求人票通りに人を雇えていますか?2024年法改正で厳格化された「労働条件明示」のズレ / 「年間休日105日」は少ないのか。求人票の休日表記で損をしない書き方