2026年9月9日

試用期間中に「これはダメだ」と思った社員への本採用拒否・解雇の法的リスクと進め方

「この人、このまま本採用にしていいのか」

試用期間中にそう感じ始めたとき、多くの経営者が最初に抱く疑問は「試用期間中なら、まだ解雇しやすいのでは」というものです。しかし、この認識には誤解が含まれています。

試用期間中の解雇・本採用拒否は、通常の解雇よりは広く認められる傾向にあるものの、無条件に自由というわけではありません。客観的で合理的な理由がなければ、後から「不当解雇」として争われるリスクが残ります。ここでは、本採用拒否・解雇が認められる条件と、実務上どう進めればよいかを整理します。

試用期間中でも「自由に解雇できる」わけではない理由

試用期間は、法律上「解約権留保付労働契約」と位置づけられています。つまり、内定・入社の時点ですでに労働契約は成立しており、試用期間はその契約に「本採用を見送る権利(解約権)」があらかじめ留保された状態にすぎません。

この考え方のもとになっているのが、最高裁判所の三菱樹脂事件判決(昭和48年12月12日)です。この判決では、試用期間中の解雇(本採用拒否)について、通常の解雇よりは広い範囲で認められるとしつつも、「解約権の行使が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合」は権利濫用として無効になるとされています。

つまり、「試用期間中だから」という理由だけで自由に契約を終了できるわけではなく、次の2点が問われます。

  • 本採用を見送る客観的で合理的な理由があるか
  • その判断が社会通念上相当といえるか(重大さに見合っているか)

この2点を欠いたまま「なんとなく合わなかった」という印象だけで契約を終了しようとすると、後日の紛争リスクが高まります。試用期間の制度そのものをどう設計・運用するかについては試用期間を「お試し期間」で終わらせない使い方で扱っていますが、本記事はその制度を「終了させる」局面に絞って解説します。

本採用拒否が認められやすいケース・認められにくいケース

裁判例の傾向を踏まえると、本採用拒否の判断が認められやすいケースと、認められにくいケースには次のような違いがあります。

認められやすい傾向にあるケース

  • 経歴詐称: 採用選考時に申告した学歴・職歴・保有資格等が事実と異なることが判明した場合
  • 著しい勤怠不良: 無断欠勤・遅刻を繰り返し、注意しても改善が見られない場合
  • 重大な規律違反: 業務命令違反、ハラスメント行為など、就業規則上の重大な違反があった場合

認められにくい傾向にあるケース

  • 能力不足の印象論: 「なんとなく仕事ができない気がする」という主観的な評価にとどまり、具体的な事実や指導記録が伴わない場合
  • 性格や協調性への違和感: 「職場に馴染んでいない」という印象だけで、業務への具体的な支障が示せない場合
  • 改善機会を与えていない場合: 課題を一度も本人に伝えず、いきなり本採用拒否を通告する場合

特に能力不足を理由とする場合は、「具体的にどの業務で、どの程度の不足があり、どのような指導を行ったが改善しなかったか」を示せるかどうかが分かれ目になります。この記録の重要性は、試用期間を「お試し期間」で終わらせない使い方で触れた目標設定・面談・フィードバックの積み重ねと直結しています。

本採用拒否・解雇の進め方

「これはダメだ」と感じた時点で、いきなり通告するのではなく、次の順序で進めることをおすすめします。

① 事実を記録する

主観的な印象ではなく、いつ・何が起きたかを具体的に記録します。勤怠不良であれば日時、能力不足であれば該当業務と発生したミスの内容を、その都度書き残しておきます。

② 本人に課題を伝え、改善の機会を与える

課題を一度も伝えないまま本採用拒否に進むと、「聞いていない」という反論の余地を残します。面談等で課題を明確に伝え、改善のための期間や支援を提供したうえで、それでも改善が見られなかったという経過を作ることが重要です。

③ 試用期間の延長を検討する

判断材料がまだ不足している場合は、本採用拒否ではなく試用期間の延長という選択肢もあります。ただし、延長には就業規則上の根拠と、本人への合理的な説明が必要です。理由もなく延長を繰り返すことは、それ自体が新たなトラブルの原因になり得ます。

④ 解雇予告のルールを確認する

試用期間中の解雇であっても、労働基準法上の解雇予告のルールが適用されます。ただし、入社から14日以内の解雇については、労働基準法21条4号により解雇予告・予告手当が不要とされています。

一方、入社から14日を超えた時点での解雇は、通常の解雇と同様に、少なくとも30日前の予告、または不足日数分の解雇予告手当の支払いが必要です。「試用期間中だから予告は不要」という誤解が、トラブルの起点になることがあります。

⑤ 判断に迷う場合は専門家に相談する

経歴詐称のような明確な理由がある場合を除き、能力不足や協調性を理由とする本採用拒否は、判断を誤ると不当解雇として争われるリスクを伴います。地位確認請求やバックペイ(未払い賃金相当額)の支払いを求められる可能性もあるため、判断に迷う段階で社会保険労務士や弁護士に相談しておくことをおすすめします。

まとめ

  • 試用期間中の解雇・本採用拒否は、通常の解雇より広く認められる傾向にあるが、自由に行えるものではない
  • 客観的で合理的な理由と、社会通念上の相当性が求められる(三菱樹脂事件・最高裁判決)
  • 経歴詐称や重大な規律違反は認められやすく、能力不足の印象論だけでは認められにくい
  • 事実の記録・本人への課題共有と改善機会の付与が、判断の根拠を支える
  • 入社14日を超えた解雇には、通常どおり解雇予告または予告手当が必要

「これはダメだ」と感じた瞬間の判断そのものは間違っていないかもしれません。ただし、その判断を実行に移す前に、根拠を積み上げるプロセスを踏んでいるかどうかが、後々のリスクを左右することがあります。


試用期間中の本採用拒否・解雇の進め方について、具体的な状況に応じたご相談を承っています。判断に迷う段階でお気軽にご相談ください

→ 関連記事: 試用期間を「お試し期間」で終わらせない使い方 / 内定通知書、テンプレのままで大丈夫?法的に必要な記載事項 / 採用ミスの代償——採用ミス1件でいくら損するか


よくある質問

Q1. 試用期間中なら理由を問わず解雇できますか?
できません。試用期間中の解雇(本採用拒否)にも、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます。理由なく解雇すると、不当解雇として争われるリスクがあります。

Q2. 入社してすぐ(1週間程度)であれば、予告なしで解雇できますか?
入社から14日以内であれば、労働基準法21条4号により解雇予告・予告手当は不要とされています。ただし、これは手続き上の話であり、解雇理由の合理性が不要になるわけではありません。

Q3. 試用期間の延長は何度でもできますか?
就業規則上の根拠があれば延長は可能ですが、合理的な理由のない延長の繰り返しは、それ自体がトラブルの原因になり得ます。延長時には本人への説明を必ず行ってください。

Q4. 退職勧奨と解雇はどう違いますか?
退職勧奨は、本人の合意のもとで退職してもらう働きかけであり、本人が拒否すれば強制はできません。解雇は会社側の一方的な契約終了であり、より高い合理性が求められます。判断に迷う場合は、まず退職勧奨から検討する会社も少なくありません。

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