2026年10月26日
昔からの「身元保証書」、そのまま使うと無効になるかもしれません
入社が決まった人に、入社承諾書と一緒に「身元保証書」を提出してもらっている。先代の頃から使っている書式を、そのままコピーして渡している。
そんな会社もあるかもしれません。
結論から書きます。2020年4月以降に新しく身元保証書を取り交わす場合、その書式に「極度額(保証の上限額)」の記載がなければ、見直しが必要な可能性があります。 2020年4月に施行された民法改正で、個人が保証人になる「根保証契約」には、極度額を定めることが求められるようになったためです。なお、2020年3月以前に締結済みの契約には、改正前の民法が適用されます。ここを区別して読んでください。
この記事では、身元保証書の見直しポイントと、「そもそも必要なのか」を考える視点を整理します。個別の法的判断は専門家の確認が前提です。ここでは法律名と制度のレベルで、全体像をつかんでください。
なぜ「昔の書式」が問題になりうるのか
身元保証書は、従業員が会社に損害を与えた場合などに、保証人がその責任を負う、という趣旨で提出してもらう場合がある書類です。
ポイントは、保証の範囲が「将来発生するかもしれない損害」まで広く及びうる点です。金額が決まらないまま、いつ・いくらの請求を受けるか分からない。保証人になる家族や知人にとって、負担の見通しが立たない契約になりやすい性質があります。
こうした個人の保証人を保護するため、2020年4月施行の民法改正では、個人が保証人となる根保証契約について、極度額を定めなければ効力を生じないという趣旨のルールが設けられました。身元保証は従業員の損害賠償債務などを保証するものであるため、一般に個人根保証にあたると解されています(個別の判断は専門家に確認してください)。
つまり、改正後に新たに取り交わす契約(更新により新しい契約として扱われる場合を含みます)で「極度額の欄がない書式」を使うと、保証としての効力が認められない可能性があります。一方、2020年3月以前に締結した契約は改正前の民法が適用されるため、極度額がないことだけで遡って無効になるわけではありません。問題になりやすいのは、古い書式を、今も新しい入社者に使い続けているケースです。書類をもらって安心していても、いざという場面で意味をなさないおそれがあります。
関係する法律は2つ
身元保証をめぐっては、主に2つの法律が関わります。
| 法律 | 見るべきポイント |
|---|---|
| 民法(2020年4月施行の改正) | → 個人が保証人となる根保証契約では、極度額の定めが必要になる |
| 身元保証ニ関スル法律(身元保証法) | → 保証の存続期間や、保証人の責任の範囲を裁判所が考慮することなどを定めた法律 |
身元保証法は古くからある法律で、期間の定めや保証人の責任の軽減に関する考え方を含みます。民法の改正は、そこに極度額という新しい要件を重ねた形、と整理すると分かりやすいでしょう。
それぞれの条文の細かい解釈や、自社の書式が両方の要件を満たすかどうかは、事案によって判断が分かれる部分です。必ず弁護士など専門家に確認してください。
書式を見直すときの4つのポイント
自社の身元保証書を手元に置いて、次の点を確認してみてください。
- [ ] 極度額の記載があるか:「○○円まで」と、具体的な金額が書ける形になっているか
- [ ] 保証の期間が書かれているか:いつからいつまでの保証なのかが読み取れるか(期間には法律上の上限があるため、設定は専門家に確認してください)
- [ ] 保証人が内容を理解して署名できる書面か:何について、いくらまで責任を負うのかが、読んで分かるか
- [ ] 更新・再提出の運用が決まっているか:期間が終わったあと、誰がどう管理するのか
極度額は、「金額が大きいほど会社に有利」とは限りません。保証人が過大な負担を懸念して署名を断る原因になることもあります。いくらにするかは、会社が想定するリスクと、保証人の納得感のバランスで決めることになります。具体的な金額の目安を一律に示すことはできません。
そもそも身元保証書は必要なのか
見直しの前に、考えておきたいことがあります。そもそも、自社にとって身元保証書は必要でしょうか。
身元保証書を求める会社の目的は、おおむね次のように分かれます。
| 目的 | よくある考え方 |
|---|---|
| 損害が出たときの備え | → 業務で金銭や物品を扱う職種で、万一に備えたい |
| 本人の身元確認の補助 | → 連絡先や家族の存在を確認しておきたい |
| 入社への意思確認 | → 「ちゃんと働く意思がある」ことの形式的な確認 |
ここで考えたいのは、目的に対して、身元保証書が最適な手段かどうかです。
- 損害への備えなら、金銭や物品を扱う業務の範囲を限定する、業務の仕組みでミスや不正を防ぐ、といった方法もあります
- 身元確認なら、緊急連絡先の届出など、保証人の責任を伴わない書類で足りる場合もあります
- 意思確認なら、入社承諾書や誓約書で足りるかもしれません
また、保証人を頼まれる側の負担は小さくありません。頼める人がいない、頼みにくいという理由で、応募者が入社をためらうことも考えられます。採用の母集団が限られる会社もあります。書類ひとつで入社を迷わせることは、会社にとってもコストになりえます。
もちろん、業種や職種によっては、身元保証書を残したほうがよい場面もあるでしょう。「昔からやっているから」ではなく、「何のために求めるのか」を言葉にしてみることが、見直しの第一歩です。
見直しの進め方:3ステップ
- 現状の確認:今使っている書式と、運用(誰に・いつ・どの職種で求めているか)を洗い出す
- 目的の整理:何のために求めているのかを書き出し、他の手段で代替できないか検討する
- 専門家に確認して書式を整える:続ける場合は、極度額や期間の入れ方、保証人への説明の仕方を、まず弁護士に、書式の運用面は社会保険労務士にも確認する
すでに入社している人の身元保証書は、2020年3月以前に締結した契約であれば改正前の民法が適用されます。ただし、更新時にどう切り替えるかは、契約の時期や内容によって考え方が変わります。ここも自己判断はせず、確認を取ってから進めてください。
入社書類は「ひとまとまり」で見直す
身元保証書は、入社時にそろえる書類のひとつです。内定の段階から入社後の手続きまで、書類全体を一度見直すと、ほかの古い運用にも気づきやすくなります。
- 内定通知書の記載事項については、内定通知書、テンプレのままで大丈夫?法的に必要な記載事項で整理しています
- 入社後の手続きの流れは、採用が決まったら何をする?社会保険手続きの基礎が参考になります
- 求人・面接段階での法的な注意点は、知らないと危ない。求人・面接で経営者がやりがちな法律NG行為で扱っています
よくある疑問
Q. 今まで問題なく運用してきました。それでも見直すべきですか?
問題が起きていないのは、「効力が試される場面がなかった」だけかもしれません。損害が実際に生じたときに初めて書式の不備が表面化する、ということは考えられます。次に使う前に点検しておくほうが安全です。
Q. 極度額を書けば、それで安心ですか?
極度額の記載は、見直しの一要素にすぎません。期間や保証人への説明、書面全体の内容も関わります。書式の最終確認は専門家にご相談ください。
Q. 身元保証書をやめると、トラブルが増えますか?
一概には言えません。損害への備えや身元確認といった目的を、ほかの手段で満たせるかどうかによります。やめる場合も、代わりに何を整えるのかをセットで考えるのが現実的です。
まとめ
- 2020年4月施行の民法改正で、個人が保証人となる根保証契約には極度額の定めが必要になった
- 改正後に新たに取り交わす契約で極度額の欄がない古い書式を使うと、保証としての効力が認められない可能性がある(2020年3月以前の契約には改正前の民法が適用される)
- 見直しでは、極度額・期間・保証人への説明・更新の運用を確認する
- その前に、「何のために身元保証書を求めるのか」を整理し、他の手段で足りないかも考える
- 法律の解釈や書式の最終確認は、専門家への相談を前提にする
先代から引き継いだ書式を、一度引き出しから出してみてください。極度額の欄があるかどうかを見るだけでも、最初の点検になります。
自社の入社書類の点検や、労務の専門的な判断が必要な場面は、専門家と連携しながら整理できます。まずは現状をうかがうところから、お気軽にご相談ください。
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