2026年7月31日
内定通知書、テンプレのままで大丈夫?法的に必要な記載事項
「採用します、よろしくお願いします」
電話やメールでそう伝えて、内定の連絡を済ませたつもりになっていないでしょうか。
内定通知書そのものに、法律で決まった書式はありません。しかし、内定を出した時点ですでに労働契約は成立しているとされ、労働条件を書面で明示する義務が発生しています。この義務を果たさないまま口頭だけで済ませてしまうと、入社後の「言った・言わない」トラブルの火種になりかねません。
内定通知書と労働条件通知書は別物
まず整理しておきたいのは、「内定通知書」と「労働条件通知書」は本来別のものだということです。
内定通知書は、会社が採用の意思を正式に伝えるための書面で、法律上の書式や記載義務は定められていません。極端にいえば、内定通知書自体を作らなくても法律違反にはなりません。
一方、労働条件通知書は労働基準法15条に基づき、労働契約を結ぶ際に会社が労働者へ書面で交付することが義務づけられている書類です。ここで重要なのが、内定は「始期付解約権留保付労働契約」として、内定通知の時点ですでに労働契約が成立していると考えられている点です(最高裁・大日本印刷事件の判例に基づく考え方)。つまり、内定を出した時点で、労働条件通知書の交付義務もすでに発生していることになります。
中小企業では、この2つを分けずに「内定通知書」という1枚の書面に労働条件通知書の内容を盛り込む形で運用しているケースも見られます。書式の名前がどうであれ、労働条件通知書に必要な記載事項が漏れなく含まれているかどうかが実務上のポイントです。
労働条件通知書に必ず書くべき事項(絶対的明示事項)
労働基準法施行規則5条により、次の項目は書面での明示が義務づけられています(これらは「絶対的明示事項」と呼ばれ、省略できません)。
- 労働契約の期間(期間の定めの有無、有期契約の場合は更新の基準)
- 就業の場所、従事すべき業務の内容
- 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇
- 賃金の決定・計算・支払いの方法、賃金の締切り・支払いの時期
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
この5項目は、いずれも原則として書面(本人が希望すればFAXやメール等の電子的方法も可)で明示する必要があります。「口頭で伝えたから大丈夫」という認識は、法律上のリスクになりやすい考え方です。
2024年4月からの追加事項も見落としやすい
2024年4月の労働基準法施行規則改正により、すべての労働者に対して次の項目が明示事項に追加されています。テンプレートを長らく更新していない会社では、この部分が抜け落ちていることがあります。
- 就業場所・業務の変更の範囲: 将来の配置転換等によって就業場所や業務内容が変わる可能性がある範囲(将来にわたって変わり得る場所・業務の範囲)
有期契約労働者を採用する場合は、さらに次の点も追加で必要です。
- 更新上限の有無とその内容(通算契約期間または更新回数の上限)
- 無期転換申込機会がある場合はその旨(該当する契約更新のタイミングごと)
- 無期転換後の労働条件
「うちは正社員採用だから関係ない」と思っていても、就業場所・業務の変更範囲は正社員採用でも明示が必要な項目です。テンプレートの見直し漏れが起きやすい箇所として意識しておくとよいでしょう。
内定通知書に加えておきたい実務上の項目
法律上の明示事項に加えて、内定通知書には次のような項目を盛り込んでおくと、入社までのトラブルを防ぎやすくなります。
- 入社予定日: いつから勤務を開始するか
- 内定の取消事由: 卒業できなかった場合、健康状態に重大な変化があった場合など、内定取消しの対象となり得る事由をあらかじめ示しておく
- 提出書類とその期限: 雇用契約書、誓約書、必要書類の一覧と提出期限
- 問い合わせ先: 入社までに不明点があった際の連絡先
このうち内定取消事由については、内定辞退を防ぐための対策まとめでも触れているとおり、候補者側からの辞退だけでなく、会社側からの取消しにも一定の合理的理由が求められます。あらかじめ書面で示しておくことで、双方にとって判断基準が明確になります。
口頭連絡だけで済ませるとどうなるか
「うちは家族的な会社だから、書面なんて堅苦しい」という考え方も理解はできます。ただし、口頭連絡だけで済ませることには次のようなリスクがあります。
- 給与額や諸手当について、入社後に「聞いていた金額と違う」という行き違いが起きることがあります
- 就業場所や業務内容について、入社後の配置転換で「そんな話は聞いていない」という不満につながることがあります
- 労働基準監督署への相談や労働審判に発展した場合、書面が残っていないと会社側の主張を裏付ける材料が乏しくなります
口頭でのやり取りは、双方の記憶に頼ることになります。記憶違いや認識のズレは誰にでも起こり得るため、書面に残すこと自体が会社と候補者の双方を守る手段になります。内定後のフォローという観点では、内定後〜入社までの「不安を解消する」コミュニケーション設計で扱った定期的な連絡と合わせて、最初の内定通知書をきちんと整えておくことが土台になります。
まとめ
- 内定通知書自体に法律上の書式義務はないが、内定の時点で労働条件通知書の交付義務が発生している
- 絶対的明示事項(契約期間・就業場所と業務内容・労働時間関係・賃金・退職に関する事項)は書面での明示が必須
- 2024年4月から「就業場所・業務の変更の範囲」等が明示事項に追加されている
- 入社予定日・内定取消事由・提出書類の期限なども盛り込んでおくと実務上のトラブルを防ぎやすい
内定通知書は、堅苦しい形式にする必要はありません。ただし、必要な記載事項が抜け落ちたテンプレートを使い続けていないか、一度見直してみることをおすすめします。
自社の内定通知書のテンプレートに不足がないか気になる方は、お気軽にご相談ください。
→ 関連記事: 内定辞退を防ぐための対策まとめ / 内定後〜入社までの「不安を解消する」コミュニケーション設計
よくある質問
Q1. 内定通知書と労働条件通知書は分けて発行すべきですか?
分けても、1枚にまとめても問題ありません。重要なのは、絶対的明示事項が漏れなく記載されているかどうかです。中小企業では1枚の書面にまとめて運用しているケースも見られます。
Q2. 内定通知はメールでもよいのでしょうか?
労働条件の明示については、本人が希望する場合はFAXや電子メール等の電子的方法でも認められています。ただし、本人の希望を確認せずに一方的にメールのみで済ませることは避けた方が無難です。
Q3. 内定通知書の記載内容と、入社後の雇用契約書の内容が変わることはありますか?
入社までの間に条件が変わる場合は、その都度書面で説明し、本人の合意を得ることが望ましいです。内定通知の内容と実際の雇用契約の内容に食い違いがあると、トラブルの原因になりやすくなります。
Q4. すでに口頭だけで内定を出してしまった社員がいる場合はどうすればよいですか?
気づいた時点の日付で、当時合意していた労働条件を記載した書面を追加交付することをおすすめします。現時点で必要な項目を書面化しておくことがリスク軽減につながります。