2026年10月31日
入社時の健康診断、「本人に任せている」で大丈夫?雇入れ時健診の基本
「入社日までに、近くの病院で健康診断を受けてきてください。結果は初日に持ってきてくださいね」
採用が決まった人に、こんな案内をしている会社もあるかもしれません。費用は本人持ちで、何を検査するかも病院任せ。「前の会社で毎年受けていたはずだから、うちでは要らないだろう」と、案内すらしていないケースもあるでしょう。
結論から書きます。入社時の健康診断(雇入れ時の健康診断)は、会社に実施が義務づけられている健康診断です。 本人に病院へ行ってもらう形にしても構いませんが、「誰が対象か」「何を検査するか」「いつまでに」「費用はどうするか」は、会社が決めておく必要があります。そしてもう一つ、この健康診断は「採用するかどうか」を決めるためのものではないという点も押さえておきたいところです。
この記事では、人事を社長や総務担当が兼務している会社向けに、雇入れ時の健康診断の基本と、入社手続きへの組み込み方を整理します。
雇入れ時の健康診断とは何か
雇入れ時の健康診断は、労働安全衛生規則第43条に定められています。会社は、常時使用する労働者を雇い入れるとき、医師による健康診断を行わなければならない、という内容です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠 | → 労働安全衛生規則 第43条 |
| 対象 | → 常時使用する労働者(パート・アルバイトも条件により対象) |
| 実施時期 | → 雇い入れの直前または直後 |
| 会社の規模 | → 従業員数にかかわらず対象(1人でも雇えば対象) |
| 目的 | → 入社後の適正な配置と健康管理に役立てるため |
| 労働基準監督署への報告 | → 雇入れ時の健康診断は不要 |
| 記録 | → 健康診断個人票を作成し、5年間保存 |
「従業員50人以上の会社の話でしょう」と思われがちですが、50人以上で求められるのは、年1回の定期健康診断の結果を労働基準監督署へ報告することです。健康診断を実施すること自体は、規模の小さい会社にも求められています。報告の義務と実施の義務は、分けて考えておくと混乱しにくくなります。
誰が対象か。パート・アルバイトの線引き
正社員として期間の定めなく雇う人は、基本的に対象です。迷いやすいのは、パートやアルバイト、契約社員です。厚生労働省の通達では、次の両方を満たす人が「常時使用する労働者」にあたるとされています。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| ① 雇用期間 | → 期間の定めがない。または、期間の定めがあっても、契約更新により1年以上使用される予定がある/1年以上引き続き使用されている |
| ② 労働時間 | → 1週間の所定労働時間が、同じ種類の業務をする通常の労働者の4分の3以上 |
②が4分の3に届かなくても、おおむね2分の1以上であれば、実施することが望ましいとされています。
たとえば「週3日・1日4時間、最初は3か月契約だが、長く続けてほしい」というパートさんの場合、どこに当てはまるかは契約の内容と実態によって変わります。判断に迷うときは、労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家に確認してから決めるのが安全です。
なお、深夜業を含む業務など一定の業務に就く人には、配置替えの際と6か月以内ごとに行う別の健康診断(特定業務従事者の健康診断)のルールがあります。該当しそうな業務がある会社は、あわせて確認しておきましょう。
検査項目は決まっている
「健康診断を受けてきて」とだけ伝えると、本人や病院によって検査の内容がばらばらになりがちです。雇入れ時の健康診断には、次の項目が定められています。
- 既往歴・業務歴の調査
- 自覚症状・他覚症状の有無の検査
- 身長・体重・腹囲・視力・聴力の検査
- 胸部エックス線検査
- 血圧の測定
- 貧血検査
- 肝機能検査
- 血中脂質検査
- 血糖検査
- 尿検査
- 心電図検査
年1回の定期健康診断では、年齢などに応じて医師の判断で省略できる項目がありますが、雇入れ時の健康診断には、そうした省略の基準がありません。 病院に依頼するときは「雇入れ時の健康診断として受けたい」と伝え、項目の漏れがないようにしておくと安心です。
また、労働安全衛生規則の改正(令和8年厚生労働省令第89号)により、2027年4月1日から、雇入れ時の健康診断などに「血清クレアチニン検査」(腎機能の検査)が加わることになっています。来年度以降の入社者については、健診機関に最新の項目を確認しておくとよいでしょう。
「最近受けた健康診断の結果」で代わりにできる場合
医師による健康診断を受けてから3か月を経過していない人が、その結果を証明する書面を提出した場合は、その健康診断の項目に相当する項目を省略できます。
ここで注意したいのは2点です。
- 「3か月以内」が条件なので、前職で半年前に受けた定期健診の結果は、原則としてそのままでは代わりになりません
- 3か月以内でも、足りない項目がある場合は、その分を追加で受けてもらう必要があります
費用と受診時間の考え方
「健康診断の費用は本人持ち」という運用は、見直しをおすすめします。法律で実施が義務づけられている健康診断の費用は、会社が負担すべきものとする行政の通達(昭和47年)があります。
受診にかかった時間の賃金については、労使で協議して定めるものとされつつ、円滑な受診のためには会社が支払うことが望ましいという考え方が示されています。
| 運用 | よくある形 | 見直しの方向 |
|---|---|---|
| 費用 | → 本人が立て替え、そのまま本人負担 | → 会社負担とし、精算方法を案内文に明記する |
| 検査項目 | → 本人・病院任せ | → 法定の項目を指定して依頼する |
| 時期 | → 「入社までに」とだけ伝える | → 期限と、入社後に受ける場合の段取りを決める |
| 受診時間 | → 休日に行ってもらう | → 勤務時間中の受診を認めるかどうかを決めておく |
細かな精算方法は会社ごとに決めて構いません。大切なのは、入社する人が「誰が払うのか」「いつまでに何を出せばいいのか」で迷わない状態にしておくことです。
「採用選考のための健康診断」とは分けて考える
もう一つ、混同されやすいのが、採用選考の段階で行う健康診断です。
厚生労働省は、雇入れ時の健康診断について「適正配置や入職後の健康管理に役立てるためのもので、採用選考時に実施することを義務づけたものではなく、応募者の採否を決定するためのものでもない」という趣旨を示しています。
そのうえで、選考の段階で、必要性を検討しないまま「血液検査」などの健康診断を一律に行うことは、応募者の適性や能力と関係のない事項を把握することになり、結果として就職差別につながるおそれがあるとされています。選考で健康状態を確認する場合は、その仕事を行ううえで合理的・客観的に必要な範囲に限るべき、という考え方です。
実務としては、次のように切り分けると整理しやすくなります。
- 雇入れ時の健康診断は、採用が決まった後、入社の直前または直後に受けてもらう
- 選考の段階では、仕事の内容に照らして本当に必要なこと以外は、健康状態を聞かない・調べない
- 「健康診断の結果しだいで内定を取り消す」といった運用を考えている場合は、事前に専門家に相談する
面接で聞いてはいけない質問の考え方は、知らないと危ない。求人・面接で経営者がやりがちな法律NG行為で整理しています。
結果を受け取った後にやること
健康診断は「受けてもらって終わり」ではありません。結果を受け取った後にも、会社がやるべきことがあります。
- 本人への結果の通知:受診した人に、結果を遅滞なく知らせる
- 医師の意見を聞く:異常の所見があった人について、健康を保つために必要な措置を医師に聞く
- 必要な措置を検討する:医師の意見をふまえ、必要があれば作業の内容や労働時間などを見直す
- 記録を残す:健康診断個人票を作成し、5年間保存する
もう一点、健康診断の結果は、個人情報の中でも特に慎重な扱いが求められる情報です。誰でも見られる共有フォルダや、履歴書と同じファイルに綴じっぱなしにするのは避けたいところです。保管場所と、見てよい人をあらかじめ決めておくことをおすすめします。具体的な取り扱いルールの作り方は、専門家に確認しながら整えると安心です。
入社手続きに組み込む3ステップ
毎回ゼロから考えなくて済むよう、入社手続きの流れに組み込んでしまうのが現実的です。
- 案内文のひな形を作る:受診の期限、受けてほしい項目、費用の精算方法、「3か月以内に受けた健診の結果があれば提出してほしい」旨を1枚にまとめる
- 依頼先の健診機関を決めておく:地域の病院や健診機関に、雇入れ時の健康診断の受け方と費用を一度確認しておく
- 結果の受け取りと保管のルールを決める:誰が受け取り、どこに保管し、異常の所見があったときに誰が医師の意見を聞くかを決める
入社前後の手続きは、ほかにもあります。社会保険の手続きは採用が決まったら何をする?社会保険手続きの基礎、入社時に提出してもらう書類の見直しは昔からの「身元保証書」、そのまま使うと無効になるかもしれませんもあわせてご覧ください。
最後に、自社の現状を点検するチェックリストです。
- [ ] 入社する人に、雇入れ時の健康診断を案内している
- [ ] パート・アルバイトについて、対象になるかどうかを確認している
- [ ] 法定の検査項目を指定して依頼している
- [ ] 「3か月以内の結果で代えられる」条件を案内している
- [ ] 費用の負担と精算方法を決めている
- [ ] 健康診断は、選考の合否とは切り離したタイミングで実施している
- [ ] 結果の保管場所と、見てよい人を決めている
- [ ] 健康診断個人票を5年間保存できる仕組みがある
よくある疑問
Q. 前の会社で受けた健康診断の結果を出してもらえば、それで足りますか?
受診から3か月を経過していないことが条件です。半年前の定期健診の結果などは、原則としてそのまま代わりにはなりません。3か月以内でも、足りない項目があれば追加で受けてもらう必要があります。迷う場合は、健診機関や労働基準監督署に確認してください。
Q. 入社してすぐ辞めた場合、健康診断の費用を返してもらえますか?
法律で義務づけられた健康診断の費用は、会社が負担するものと考えられています。費用の返還を求める取り決めは、労働基準法との関係などで問題になる可能性があるため、設ける前に専門家に確認することをおすすめします。
Q. 入社してすぐに、年1回の定期健康診断の時期が来ます。両方受けてもらう必要がありますか?
雇入れ時の健康診断を受けた人については、その実施日から1年間に限り、定期健康診断のうち相当する項目を省略できるとされています。実施のタイミングをどう合わせるかは、健診機関とも相談しながら決めるとよいでしょう。
Q. 入社日までに健康診断が間に合いません。どうすればいいですか?
雇入れ時の健康診断は「雇い入れの直前または直後」に行うものとされているため、入社後に受けてもらう形でも差し支えないと考えられます。その場合は、受診日を入社後の早い時期に決め、勤務時間中に受けてよいかどうかもあわせて本人に伝えておくと、案内がスムーズです。受診が後回しにならないよう、入社初日の説明事項に入れておくのも一つの方法です。
Q. 健康診断の結果を見て、内定を取り消してもいいですか?
雇入れ時の健康診断は、採否を決めるためのものではないとされています。結果を理由に内定を取り消すことは、トラブルにつながるおそれがあります。こうした判断が必要になりそうな場合は、必ず事前に専門家に相談してください。
まとめ
- 雇入れ時の健康診断は、従業員数にかかわらず会社に実施が求められる健康診断
- 対象は「常時使用する労働者」。パート・アルバイトも、雇用期間と週の労働時間の条件しだいで対象になる
- 検査項目は法令で決まっており、雇入れ時の健康診断には省略の基準がない(3か月以内の健診結果の提出で、相当する項目は省略可)
- 法定の健康診断の費用は会社が負担するものとされている
- この健康診断は採否を決めるためのものではない。選考段階の健康診断とは分けて考える
- 結果の通知、医師の意見聴取、個人票の5年保存、健康情報の慎重な保管までが会社の仕事
- 判断に迷う点は、労働基準監督署や専門家に確認する
まずは、入社する人に渡している案内文を一度見直してみてください。「費用は誰が払うのか」「何を検査するのか」が書かれているかを確かめるだけでも、最初の点検になります。
入社手続きの段取りづくりや、労務の専門的な判断が絡む場面は、専門家と連携しながら一緒に整理できます。まずは現状をうかがうところから、お気軽にご相談ください。
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