2026年10月7日
「一身上の都合」で終わらせない。前職の退職理由の深掘り質問
「前職を辞めた理由を教えてください」
そう聞いて、返ってきた答えが「より成長できる環境を求めて」だった。なるほど、とうなずいて次の質問に進む。心当たりのある方もいるのではないでしょうか。
この答えは、嘘ではないでしょう。ただ、何も分かりません。前向きな言葉でまとめられた退職理由は、定型文に近くなりやすいからです。
この記事では、前職の退職理由という1テーマだけに絞って、角を立てずに事実を確かめる聞き方と、そのまま使えるフォロー質問を紹介します。
なぜ退職理由を聞くのか。目的を決めておく
深掘りの前に、何を確かめたいのかを決めておきます。目的が曖昧なまま聞くと、詮索や尋問になりやすいからです。
退職理由から確かめたいことは、おおむね次の3つです。
- 事実:いつ、どんな状況で辞めると決めたのか(経歴に矛盾がないか)
- 価値観:何を重視して仕事を選ぶ人か(自社と合うか)
- 再現性:同じ状況になったとき、自社でも同じ理由で辞めないか
「なぜ辞めたのか」を責めるための質問ではありません。「うちで同じことが起きないか」を一緒に確認するための質問です。この前提を、聞く側が持っておくだけで、口調が変わりやすくなります。
「一身上の都合」型の答えが出る理由
候補者は、退職理由を面接の「減点ポイント」だと思いがちです。だから、あたりさわりのない答えを準備してきます。
- 「キャリアアップのためです」
- 「新しいことに挑戦したくて」
- 「一身上の都合です」(退職届の定型文をそのまま使う)
これは候補者が不誠実だからではなく、正直に話すと損をすると感じている場合があるからです。本音が出てこないとき、聞き方が影響していることもあります。
本音を話しやすい面接の空気づくりについては、面接で「候補者が本音を話してくれない」理由と対策で扱っています。ここでは、退職理由という一つの質問に絞ります。
深掘りの基本形:4つの順番
退職理由は、いきなり核心に踏み込まず、次の順番で聞くと角が立ちにくくなります。
① 前置きで安心させる
最初に、聞く目的を一言伝えます。
「前職の話は、うちで長く働いてもらえるかを一緒に考えたくて伺っています。答えにくいところは、無理のない範囲で大丈夫です」
これだけで、候補者の構えがゆるみやすくなります。
② 事実から聞く(理由の前に、経緯)
「なぜ辞めたのか」の前に、「いつ、どんなきっかけがあったのか」を聞きます。
- 「辞めようと考えはじめたのは、いつごろでしたか」
- 「きっかけになった出来事はありましたか」
- 「辞めると決めるまでに、社内で相談したことはありましたか」
感情や評価より、時系列の事実のほうが答えやすく、嘘や誇張も入りにくくなる面があります。
③ 「やったこと」を聞く
不満を抱えたあと、本人がどう動いたかには、その人の仕事の姿勢が出ます。
- 「その状況を変えるために、何か働きかけはしましたか」
- 「上司や周囲に相談したとき、どんな反応でしたか」
- 「改善されなかった場合、どう判断しましたか」
何もせずに辞めたのか、動いたうえで辞めたのかは、入社後の行動を考える手がかりになります。ただし、動かなかったことがすぐに評価の低さになるわけではありません。理由は背景を聞いてから判断します。
④ 次の職場に求めることにつなげる
最後に、過去の話から自社の話へ橋渡しします。
- 「次の職場では、同じ状況をどう避けたいと考えていますか」
- 「仕事を選ぶうえで、いちばん譲れない条件はなんですか」
- 「うちの環境で、その点はどう見えていますか」
退職理由は、自社とのすり合わせの材料として使います。過去の評価で終わらせず、未来の話につなげるのがポイントです。
答えのパターン別・フォロー質問例
よくある答えと、その続きの聞き方をまとめます。
| 候補者の答え | フォロー質問の例 |
|---|---|
| 「キャリアアップのため」 | → 「具体的に、どんな役割や仕事を目指していましたか」「前職では、それがむずかしかった理由はなんでしたか」 |
| 「人間関係が合わなくて」 | → 「具体的にどんな場面でそう感じましたか」「そのとき、ご自身ではどう対応しましたか」 |
| 「残業が多くて」 | → 「当時はどのくらいの働き方でしたか」「次の職場では、どんな働き方を希望していますか」 |
| 「給与に不満があって」 | → 「何と比べて、どこに不満を感じましたか」「評価や昇給の仕組みについて、どう思っていましたか」 |
| 「会社の将来が不安で」 | → 「どんなことからそう感じましたか」「その状況で、ご自身は何をしましたか」 |
| 「一身上の都合です」 | → 「差し支えない範囲で、もう少し教えてもらえますか」(無理に詰めない。健康・介護・家族の事情を本人から話してくれた場合も、深掘りせず受け止め、評価には使わない) |
どの質問も、「なぜ?」と詰めるのではなく、「どんな場面で」「何をしましたか」と状況を聞く形にしています。「なぜ」を連発すると責められている感覚が強くなりやすいですし、面接官側の話し方が圧迫的になっていないかは、「本気で聞いてるだけ」が圧迫面接になっていませんかも参考にしてください。
答えを聞いたあとの見方
答えが出たら、次のような観点で整理します。ただし、ひとつの答えだけで合否を決めることは避けてください。
- 一貫しているか:職務経歴や志望動機と矛盾していないか
- 他責だけになっていないか:前職への不満だけでなく、自分の動きにも触れているか
- 自社で起きうることか:不満の中身が、自社の環境でも再現しそうか
- 事実として確認できるか:在職期間や役割など、経歴書と照らして確かめられる部分はどこか
たとえば「前職は残業が多くて辞めた」という人に、自社も繁忙期に残業が出る会社であれば、その点を面接のうちに率直に伝えます。隠して入社してもらうより、先に開示してお互いに判断するほうが、早期離職のリスクは下がりやすくなります。
避けたい聞き方
悪気がなくても、次のような聞き方は候補者との信頼を損ないます。
- 「どうせ人間関係でしょう?」:決めつけて聞く
- 「すぐ辞める人なんですね」:転職回数や在職期間を責める
- 「前の会社が悪かっただけでは?」:前職を一緒に批判して、本音を引き出そうとする
- 「ほかの会社にも同じことを言うんですか」:揚げ足を取る
- 同じ質問を言い方を変えて何度も繰り返す:詰問に近づく
また、退職理由の深掘りが、本人の私生活や家族のことなど、仕事と直接関係のない領域に入り込まないよう注意が必要です。たとえば結婚・出産の予定、家族の状況、思想信条などは、退職理由を聞く流れでも尋ねるべきではないと、厚生労働省の「公正な採用選考」の考え方では整理されています。候補者が自分から健康や家族の事情を話してくれた場合も、深掘りせずに受け止め、評価の材料にはしません。どこまでが問題になるかは状況によって変わるため、判断に迷う場合は、厚生労働省の「公正な採用選考」の考え方を確認するか、社会保険労務士などの専門家に相談してください。
面接で聞いてはいけない質問や、求人・面接での法律上の注意点は、知らないと危ない。求人・面接で経営者がやりがちな法律NG行為にまとめています。
退職理由の質問を、面接設計のなかに置く
退職理由の質問は、それだけで独立した質問ではありません。ほかの質問と組み合わせることで、判断の精度が上がりやすくなります。
- 面接全体の質問をどう組み立てるか → 採用面接で何を聞けばいいかわからない——小さな会社の面接設計入門
- 聞いた内容を評価につなげるには → 「感覚で採用してミスマッチになる」——面接評価シートを作って「なんとなく採用」を卒業する
- 自社を辞めた人から学ぶ視点 → 「辞めた社員に話を聞いたら、採用が変わった」——退職者ヒアリングを次の採用に活かす
候補者の退職理由を深掘りする前に、自社の退職者がなぜ辞めたのかを整理しておくと、「うちで同じことが起きないか」を確かめる質問の精度が上がりやすくなります。
まとめ
- 退職理由を聞く目的は、責めることではなく「事実・価値観・再現性」の確認
- 「一身上の都合」型の答えは、候補者が正直に話すと損だと感じている場合があるサイン
- 順番は「前置き → 経緯 → 本人の動き → 次の職場に求めること」
- フォロー質問は「なぜ」ではなく「どんな場面で」「何をしましたか」
- 答えのひとつで合否を決めず、一貫性と自社での再現性を見る
- 私生活や家族に踏み込まない。迷ったら公的資料や専門家に確認する
退職理由は、候補者の過去ではなく、これから一緒に働けるかを考えるための材料です。聞き方を少し変えるだけで、定型文の向こうにある本当の理由が見えてきます。
面接での質問設計や、候補者の見極め方について整理したい場合は、気軽にご相談ください。