2026年11月7日

育休の穴を有期で埋める前に。契約期間と「更新しない」の決め方

地方の事務所で、50代の経営者が育休代替の有期契約について、候補者と落ち着いて話し合っている様子

社員が産前産後休業や育児休業に入る予定が決まり、「そのあいだ誰か入れないと現場が回らない」——従業員30人前後の地方の会社では、よくある場面です。正社員を一人増やすほど仕事量は増えていない。かといって、今いる人だけで半年から一年をカバーするのは厳しい。そこで頭に浮かぶのが、「有期で代替要員を採る」という選択ではないでしょうか。

ここでつまずきやすいのは、採用そのものより、復帰のタイミングで「残ってほしい/辞めてほしい」の認識がすれ違うことです。代替で入った人は「うまくやれているのに、なぜ終わるのか」と感じ、会社は「最初から期間限定の話だったはず」と感じる。書面と口頭の説明が曖昧だと、このズレは大きくなります。

結論から書きます。育休の穴を有期で埋めるなら、採る前に「いつまで・更新するか・復帰したらどうなるか」を書面で決めておくことが先です。 求人票・面接・労働条件の明示で、同じ言葉を繰り返す。育休が延びたときの扱いも、最初に書いておく。この記事では、中小企業が現場で迷いやすいポイントを、契約の決め方・求人の書き方・復帰前後の進め方の順に整理します。個別の契約や適用判断は、社会保険労務士などの専門家に確認してください。

なぜ「とりあえず半年」では足りないのか

有期労働契約は、期間が満了すれば原則として終了します。一方で、更新を繰り返したり、「また続いてほしい」と受け取れる言動があったりすると、労働者側に更新への合理的な期待が生まれ得ます。労働契約法第19条では、一定の場合に雇止め(更新しないこと)が認められないことがある、と整理されています。育休代替だからといって、自動的に例外になるわけではありません。

よくある感覚 起きやすいこと
「育休が終わったら自然に終わるはず」 契約書に更新の有無が書いていないと、期待が残る
「優秀だったから残したい」 育休取得者の原職復帰への配慮と両立を考える必要がある
「早く復帰したから、代替も今日で終わり」 確定日付だけの契約だと、期間満了前に切れないことがある
「口頭で期間限定と言った」 書面と食い違うと、後から説明が難しくなる

厚生労働省のパンフレットでも、育児休業等の代替要員について、あらかじめ雇用契約の内容を明確にしておくよう求めています。休業が予定より早く終わった場合の扱いも含め、代替要員に予期せぬ不利益を与えない、というのが趣旨です。

採る前に決めておく3点

採用活動を始める前に、社長(または人事を兼務する経営者)が紙に書いて決めておくとよいのは、次の3点です。

1. 契約期間の「終わり方」

終わり方には、大きく二つの型があります。

型 イメージ 注意点
確定日付型 「2027年3月31日まで」 育休取得者がそれより早く復帰しても、期間満了前に契約を終わらせることは原則できない、という整理(厚労省パンフレット)
確定日付+復帰時終了の留保 「〇年〇月〇日まで。ただし育休取得者が復帰した場合は終了することがある」 期間満了前に終了させる余地はあるが、労働基準法第20条の解雇予告が問題になり得る、という説明がある。手続きは専門家に確認

「とりあえず半年」とだけ決めると、育休の延長・短縮のどちらにも弱いです。産前産後休業(産前6週間・産後8週間が目安)と育児休業の見込み期間、引き継ぎの重なりを踏まえて、終わりの日付か条件を先に決めるのが安全です。個別の日数・手続きは、法令と申出内容で変わるため、断定せず専門家に確認してください。

2. 更新の有無と、更新するとしたら何を見るか

労働条件の明示では、契約期間に加え、更新する場合の基準も書面で示す必要があります(労働基準法第15条・労働基準法施行規則)。令和6年4月以降は、有期契約の締結・更新時に更新上限(通算期間または更新回数)の有無と内容の明示も求められます。募集時にも、更新する場合の基準(上限を含む)の明示が職業安定法施行規則上求められます。

育休代替でよく使われる書き方の一例は、次のようなものです(あくまで例であり、御社の契約にそのまま使えるとは限りません)。

  • 更新の有無:更新しない。ただし、育児休業をしている者が休業期間を延長するときは、更新することがある
  • 更新する場合の判断:休業の延長の有無、業務の必要性、勤務態度・能力

「更新することがある」と書いた以上、延長が決まったときは本人の同意を得て、改めて労働条件を明示する必要があります。更新しないつもりなら、求人・面接・契約書で同じ趣旨を繰り返してください。

3. 育休取得者の復帰先と、代替要員の役割の境界

育児・介護休業法の指針では、育児休業後は原則として原職または原職相当職に復帰させるよう配慮する、とされています。代替要員を「正社員の席を奪う人」として採ると、復帰時にどちらかが居場所を失います。

採用前に決めておきたいのは、次です。

  • 代替要員が担う業務の範囲(休業中の業務の全部か、一部か)
  • 復帰後、代替要員の契約をどう終えるか(期間満了/留保条件/双方合意の延長)
  • もし代替要員を継続雇用したくなったとき、育休取得者の配置をどう相談するか

「採ってみないと分からない」は事実ですが、分からないままでも書いておく境界があるだけで、面接での説明はかなり楽になります。欠員を埋めるかどうかの判断自体は、「辞めたから採る」の前に。欠員補充、本当に必要ですか——求人を出す前の4ステップ判断も参考にしてください。

求人票と面接で同じ言葉を使う

有期の代替採用でいちばん効くのは、求人の段階から「期間限定であること」を隠さないことです。隠すと応募は増えるかもしれませんが、入社後のすれ違いコストの方が高くなりやすいです。

求人で書いておきたいこと

  • 雇用形態:有期契約(育児休業代替)
  • 契約期間:開始予定日〜終了予定日(見込み)
  • 更新:原則なし/延長時のみ検討、など
  • 業務:休業中の社員が担っていた業務の概要
  • 就業場所・業務の変更の範囲(令和6年4月以降の募集時明示事項)

「将来は正社員登用あり」と書くなら、どんな条件で検討するかまで書けないなら、書かない方がよいです。曖昧な登用表現は、更新期待を生む種になります。パート採用の求人・面接の進め方は、パートが集まらないのは求人の作り方が原因かもしれない——正社員採用とは違うパート採用のコツもあわせてご覧ください。

面接で必ず口にすること

  1. この採用は、〇〇さんの育児休業(産休含む)の代替であること
  2. 契約は有期で、原則として更新しないこと(延長時の例外があるならその条件)
  3. 休業者が復帰したあとの扱い(期間満了まで残るか、留保条件があるか)
  4. 優秀でも「自動的に正社員になる」わけではないこと

相手の質問で多いのは、「終わったあと残れる可能性はあるか」です。可能性をゼロと言い切れない場合でも、今の契約の範囲では約束しないと伝えた方が、後からのトラブルは減ります。求人・面接でやりがちな法律上の注意は、知らないと危ない。求人・面接で経営者がやりがちな法律NG行為も確認しておくと安心です。

労働条件の明示でそろえたい項目

入社時(および更新時)は、労働基準法第15条に基づき、労働条件を明示します。有期の代替採用では、次を特に丁寧にします。

項目 代替採用で書き漏れしやすい点
契約期間 開始日・終了日(または終了条件)
更新の有無・基準 「更新しない」だけでも明記。延長時のみ更新するならその旨
更新上限 通算期間または更新回数の上限の有無と内容(令和6年4月以降)
就業場所・業務 雇入れ直後の内容と、変更の範囲
賃金・時間・休日 休業者と同じ仕事でも、代替要員の条件として説明できる形に
退職に関すること 期間満了で終了する旨を、解雇と混同されない書き方で

契約期間中の解雇は、労働契約法第17条により、やむを得ない事由がある場合でなければできない、とされています。「復帰が早まったから今日で終わり」は、契約の型と手続きを確認せずに進めると危険です。厚労省の説明でも、確定日付型では期間満了前に切れない、留保条件付きでも解雇予告の規定が問題になり得る、と整理されています。迷ったら専門家に確認してください。

無期転換ルール(労働契約法第18条:同一使用者との有期契約が通算5年を超えた場合の申込み)も、更新を重ねる設計だと将来関係します。育休代替を短期間・更新なしで設計するなら、最初からその前提を書面に落とすことが重要です。個別の通算期間の計算は、空白期間などの例外もあるため、断定せず専門家に確認してください。

復帰が近づいたときの進め方

育休取得者の復帰予定日が近づいたら、代替要員への説明と、取得者側の復帰準備をセットで進めます。

タイミング 会社側でやること
復帰予定の1〜2か月前 取得者に復帰日・勤務の希望を確認。代替要員に、契約どおり期間満了で終了する旨を再確認
復帰の2〜4週間前 業務の引き継ぎ表を作る。誰がどの仕事を戻すかを紙にする
復帰週 取得者の原職(または原職相当)への配慮と、代替要員の最終出勤日・書類の返還を並行
期間満了後 必要なら離職票などの手続き。継続雇用する場合は、取得者の配置と本人同意を確認してから新契約

「優秀だから残したい」となったときは、感情で先に本人へ約束しない方がよいです。先に決めるのは、育休取得者の席と役割をどうするかです。指針上の原職復帰への配慮と、不利益取扱いの禁止の趣旨を踏まえ、配置変更が必要な場合は本人の同意を得て進めるのが望ましい、というのが実務上の安全寄りの進め方です。個別事案は専門家に相談してください。

受け入れの初週の段取りは、代替要員にも有効です。「初日の段取り」で印象は変わりやすい——入社後1週間の受け入れプログラムの作り方の考え方を、期間限定の人向けに短く使うと、引き継ぎ品質が上がります。試用の見極めが必要な場合は、試用期間を「お試し期間」で終わらせない使い方も参考になります(有期の期間設計とは別の話なので、混ぜないでください)。

チェックリスト(求人を出す前に)

  • [ ] 育休(産休含む)の見込み期間と、代替が必要な業務範囲を紙に書いた
  • [ ] 契約の終わり方(確定日付/留保条件)を決めた
  • [ ] 更新の有無・基準・更新上限の有無を決めた
  • [ ] 求人票に、有期・代替・期間・更新の趣旨を書いた
  • [ ] 面接で同じ趣旨を口頭でも説明する文を用意した
  • [ ] 労働条件通知書(または雇用契約書)のひな型に、上記を落とした
  • [ ] 復帰が早まった場合・延びた場合の社内手順を、専門家に確認する予定を入れた
  • [ ] 「優秀なら残す」を口約束しないルールを、面接担当で共有した

半分以上が未着手なら、求人を出す前に契約の骨格から整えた方が、後からの修正より負担は小さいです。採用コストの見積もりは、求人1件の本当のコスト、計算したことありますか——応募単価・採用単価の出し方とExcel記入例も参考にしてください。

よくある疑問

Q. 育休代替なら、復帰と同時に必ず辞めさせられますか?
契約の型によります。確定日付だけの契約では、復帰が早くても期間満了前に終了できない、という整理があります。復帰時終了の留保がある場合でも、解雇予告などの手続きが問題になり得ます。個別の契約文言と手続きは専門家に確認してください。

Q. 「更新しない」と書いたのに、育休が延びたらどうしますか?
あらかじめ「延長するときは更新することがある」と書いておき、延長が決まった時点で本人の同意を得て更新手続きをする、という進め方がよく取られます。書いていないのに突然延ばすと、期待や不利益の認識がずれやすいです。

Q. 代替要員がとても優秀で、正社員にしたいです。育休取得者にはどう伝えますか?
先に取得者の復帰後の役割を本人と話し合い、同意を得てから、代替要員への継続の話をする、という順序が安全です。取得者の休業や復帰を理由とする不利益取扱いに当たらないか、配置の合理性も含め専門家に確認してください。

Q. 派遣で代替する方がトラブルは少ないですか?
派遣は自社と代替者の間に直接の雇用契約がないため、復帰時の雇止めトラブルは起きにくい、という整理はあります。一方で、派遣期間の設定や延長の取り決め、費用感は別問題です。この記事では派遣の可否を推奨・否定しません。自社有期か派遣かは、期間・業務・費用・管理負担で選んでください。

Q. 有期を繰り返して5年を超えたらどうなりますか?
労働契約法第18条の無期転換申込権が問題になり得ます。育休代替を短期間・更新なしで設計するなら、その前提を最初の契約に落とすことが重要です。通算の数え方は個別事情があるため、専門家に確認してください。

まとめ

  • 育休の穴を有期で埋めるとき、先に決めるのは「人」より「契約の終わり方・更新の有無・復帰時の扱い」
  • 有期でも、更新期待が認められると雇止めが制限されることがある(労働契約法第19条)。代替だから例外、とは限らない
  • 求人・面接・労働条件の明示で、同じ言葉を繰り返す。令和6年4月以降は更新上限や就業場所・業務の変更の範囲の明示にも注意
  • 確定日付型と、復帰時終了の留保付きでは、早期復帰時の扱いが違う。期間中の解雇は労働契約法第17条の制約がある
  • 育休取得者の原職(相当)復帰への配慮と、代替要員の契約終了をセットで設計する
  • 「優秀だから残す」は口約束せず、取得者の配置を先に決める
  • 個別の契約文言・手続き・保険加入は、社会保険労務士などの専門家に確認する

育休代替の有期採用で、契約の書き方や復帰時の進め方に迷うことがあれば、お気軽にご相談ください。御社の休業期間と業務の切り方に合わせて、決めておく項目を一緒に整理します。

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