2026年11月5日
内定後に「家族が反対している」と言われたら、経営者が取れる対応
面接での受け答えもよく、本人も「ぜひお願いします」と言ってくれた。内定を出して、入社日もおおよそ決まった。ところが数日後、本人から電話があり、少し言いにくそうに「実は、家族が反対していまして……」と切り出される。社員30人ほどの地方の会社で、何か月も待ってようやく出会えた人だと、頭が真っ白になる社長も多いのではないでしょうか。
「ご両親に会って説明したほうがいいのか」「給料を上げれば納得してもらえるのか」「何が不満なのか、家族のことを詳しく聞いてもいいのか」。どれも、会社を思えばこそ浮かぶ考えです。ただ、ここでの動き方を間違えると、かえって本人を追い詰めたり、採用のルールに触れたりするおそれがあります。
結論から書きます。家族の反対があったとき、会社がやるべきことは「家族を説得すること」ではなく、「本人と家族が判断するための材料を、本人に渡すこと」です。家族の職業や事情は聞かず、会社の情報を正確に、書面で、わかりやすく出す。そのうえで、最後は本人の決定を尊重します。 この記事では、なぜ家族が反対するのか、会社がしてよいこと・避けたいこと、時期ごとの進め方、辞退になったときの受け止め方まで、順に整理します。
家族が反対する理由は、たいてい「わからない」から
家族が内定先に反対するとき、その会社のことをよく知ったうえで反対しているケースは、実はそれほど多くないと考えます。多いのは、よくわからないから心配、というものです。
| 家族が心配しやすいこと | 背景にありがちなこと | 会社が出せる材料 |
|---|---|---|
| 会社がつぶれないか | 名前を聞いたことがない、規模が小さい | 創業年、事業内容、主な取引先の業種、会社案内 |
| 給料や休みは大丈夫か | 求人票の数字だけでは暮らしが想像できない | 労働条件通知書、モデル的な1年間の休み、残業の実態 |
| きつい仕事ではないか | 業界のイメージ、ネットの口コミ | 1日の仕事の流れ、職場の写真、配属先の様子 |
| 長く働けるのか | 前の職場で苦労した経験 | 入社後の教え方、試用期間の扱い、相談できる人 |
| 今の会社を辞めて大丈夫か | 転職そのものへの不安 | 入社日の調整の余地、引き継ぎへの配慮 |
この表の右側は、どれも会社が自分で用意できるものです。家族の考え方や家庭の事情に踏み込まなくても、会社のことがわかれば、心配の多くは小さくなります。逆に言えば、家族の反対は「会社の情報が、本人を通して家族まで届いていない」というサインかもしれません。
会社が「してよいこと」と「避けたいこと」
ここで最も大切な線引きを整理しておきます。
厚生労働省は「公正な採用選考」の考え方として、家族に関すること(職業・続柄・健康・病歴・地位・学歴・収入・資産など)を、応募書類や面接で把握することは、就職差別につながるおそれがあると示しています。同省の資料では、応募者から不適切だと指摘された事項のうち「家族に関すること」の質問が多くを占め、面接の空気を和らげるつもりで聞いてしまうケースが多いとも注意されています。
内定を出したあとであっても、「家族の反対」をきっかけに家族の職業や家庭の事情を細かく聞き出すことは、同じ問題をはらむと考えたほうが安全です。
| してよいこと | 避けたいこと |
|---|---|
| 「どんな点が心配されていそうですか」と、会社に関する心配を聞く | 「ご両親は何のお仕事をされていますか」と家族の属性を聞く |
| 会社の情報を書面や資料で渡す | 家族の収入や家庭の事情を聞き出す |
| 本人が希望すれば、家族からの質問に答える場を用意する | 会社から家族に直接連絡をとる、自宅を訪ねる |
| 回答の期限を決めて、待つ | 「今月中に返事がないと取り消します」と急かす |
| 本人が出した結論を受け止める | 辞退を思いとどまるよう、何度も電話をかける |
ポイントは、質問の対象を「家族」ではなく「会社への心配」にすることです。「何が心配と言われていますか」と聞けば、本人は給料のこと、休みのこと、会社の将来のことなど、会社として答えられる話を教えてくれます。家族が誰で、どんな人かを知る必要はありません。面接で聞いてよいこと・避けるべきことの全体像は、知らないと危ない。求人・面接で経営者がやりがちな法律NG行為で整理しています。
連絡が来たら、最初の電話でやる3つのこと
本人から「家族が反対していて」と連絡が来たら、最初の電話では、次の3つに絞ります。
| 順番 | やること | 言い方の例 |
|---|---|---|
| ① | 話してくれたことに礼を言う | 「言いにくいことを、正直に教えてくださってありがとうございます」 |
| ② | 会社への心配を聞く | 「会社のことで、どんな点が心配だと言われていますか。答えられることは、きちんとお答えします」 |
| ③ | 次の約束を決める | 「資料をまとめてお送りします。○日までに、もう一度お話しできますか」 |
最初の電話で、条件を上乗せしたり、結論を迫ったりする必要はありません。むしろ、本人が「この会社は話を聞いてくれる」と感じられるかどうかが、その後を大きく左右します。家族の反対に悩んでいる本人は、会社と家族の板挟みになっています。会社まで本人を責めるような言い方をすると、本人は「やはりやめておこう」と考えやすくなります。
また、この段階で「本人は本当は来たいのか」を探りすぎないことも大切です。本人の気持ちが揺れているのは自然なことで、決めるのは本人です。会社は、判断の材料をそろえる役に徹します。
本人に渡す「家族向けの資料」をつくる
家族の心配を小さくするには、本人が家族に見せられる資料を渡すのが効果的です。口で説明したことは、本人が家族にうまく伝えきれないこともあります。紙に書かれたものは、そのまま家族の目に届きます。
本人に渡したい資料の例
- 会社案内(創業年、事業内容、社員数、所在地)
- 労働条件通知書、または内定通知書の写し(給与、勤務時間、休日、試用期間)
- 入社後の最初の1か月の予定(誰が教えるか、どんな仕事から始めるか)
- 配属先の様子がわかる写真や、職場の紹介
- 相談窓口(社長または担当者の名前と連絡先)
労働条件は、労働基準法により書面などで明示することが会社に求められています。内定の段階で、まだ労働条件通知書を渡していない場合は、このタイミングで正式な書面を渡すとよいでしょう。何をどのタイミングで書面にするかは、内定通知書、テンプレのままで大丈夫?法的に必要な記載事項も参考にしてください。会社案内をこれからつくる場合は、求人票だけで足りていますか?会社案内資料という武器で項目を整理しています。
資料をつくるときは、よいことばかり並べないことも大切です。残業が繁忙期に増えるなら、その時期とおおよその傾向を正直に書きます。家族は、都合のよい話ばかりの資料には、かえって警戒します。弱みを先に伝える考え方は、いいことしか書かない求人票は、なぜ早期離職を招くのかでも触れています。
家族と会う場を求められたら
本人から「家族が、一度会社の話を聞きたいと言っています」と言われることもあります。その場合は、次のように考えます。
| 確認すること | 考え方 |
|---|---|
| 誰が希望しているか | 本人が希望している、または本人が同意していることが前提。会社から「ご家族にも会わせてください」とは求めない |
| どこで会うか | 会社に来てもらい、職場を見てもらう形が自然。自宅を訪ねるのは避ける |
| 何を話すか | 会社の説明と、質問への回答に絞る。家族の事情や考え方は聞かない |
| 誰が出るか | 社長と、配属先の責任者など少人数。大勢で迎えると圧迫感が出る |
| 終わり方 | その場で返事を求めない。「ご家族で話し合ってください」で締める |
家族と会う場は、説得の場ではなく、会社を見てもらう場です。「うちに来れば大丈夫です」と言い切るより、「こういう会社です。わからないことがあれば聞いてください」という姿勢のほうが、家族の安心につながりやすいと考えます。職場見学の進め方は、採用面接に「職場見学」を組み込むも参考になります。
条件を変えるかどうかは、慎重に
家族の反対を前にすると、「給料を少し上げれば」「入社日を遅らせれば」と考えたくなります。条件の調整そのものは悪いことではありませんが、次の点を確かめてからにします。
- その調整は、家族の心配の中身に合っているか(給料が心配なのか、休みが心配なのかで、手当は変わる)
- ほかの社員とのつり合いがとれるか(この人だけ特別扱いになっていないか)
- 一度変えた条件を、入社後も守り続けられるか
とくに給与の上乗せは、入社後に既存の社員との差として残ります。家族の反対を理由にした上乗せは、慎重に判断したほうがよいでしょう。一方で、入社日の調整や、最初の配属先の説明を丁寧にするといった対応は、比較的取り入れやすいものです。条件を変える場合は、口約束にせず、変更後の内容を書面で渡してください。
回答の期限と、辞退になったときの受け止め方
家族と話し合う時間は必要ですが、会社としても、ほかの応募者への連絡や、欠員の計画があります。期限は、本人と相談して決めるのが基本です。
| 場面 | 考え方 |
|---|---|
| 期限の決め方 | 「1週間ほどで、お気持ちを聞かせてもらえますか」と、本人と合意する |
| 期限が来ても迷っている | もう一度、何が決め手になりそうかを聞き、足りない情報があれば補う |
| 辞退の連絡が来た | 引き止めすぎず、話してくれたことに礼を言う |
| 辞退のあと | 必要に応じて、ほかの応募者への連絡や、募集の再開を進める |
内定の法的な扱いや、内定の辞退・取消しについては、注意が必要です。一般に、内定によって労働契約が成立していると考えられる場合があり、その場合、会社側からの内定取消しは自由にはできないとされています。「家族が反対しているようだから」と会社のほうから内定を取り消すことは避けてください。 本人からの辞退の扱いも含め、判断に迷う場合は、社会保険労務士や弁護士などの専門家に確認してください。
辞退になったとしても、それで関係が終わるわけではありません。地方では、本人や家族と、どこかでまた顔を合わせることもあります。丁寧に受け止めた会社は、「感じのよい会社だった」と覚えてもらえます。数年後に、本人が再び応募してくることもあります。辞退への対応の全体像は、「内定を出したのに来なかった」——採用の「最後の1mm」で失敗しないためにで整理しています。
内定前からできる、家族の反対を減らす工夫
家族の反対は、内定後に起きてから対応するより、内定前から情報を渡しておくほうが、防ぎやすくなります。ここでも、家族のことを聞くのではなく、本人が家族に話しやすい材料を渡すことが基本です。
- 面接の最後に、「ご家族やまわりの方に説明しやすいように」と会社案内を渡す
- 内定を出すときに、労働条件を書面で示し、口頭の説明とずれがないようにする
- 「わからないことがあれば、どなたからの質問でも本人を通してお答えします」と伝えておく
- 内定から入社までの間に、定期的に連絡をとる
内定から入社までの連絡のとり方は、内定から入社まで、何回連絡すればいいのか問題も参考にしてください。
家族の反対があったときのチェックリスト
- [ ] 本人が話してくれたことに、まず礼を言った
- [ ] 家族の職業や家庭の事情を聞いていない
- [ ] 「会社のことで、どんな点が心配か」を聞いた
- [ ] 会社案内や労働条件の書面を、本人に渡した
- [ ] 家族との面会は、本人の希望・同意がある場合に限った
- [ ] 会社から家族に直接連絡していない
- [ ] 条件を変える場合は、ほかの社員とのつり合いを確かめ、書面で示した
- [ ] 回答の期限を、本人と相談して決めた
- [ ] 内定の取消しや辞退の扱いで迷う点は、専門家に確認する用意がある
よくある疑問
Q. 家族が何を心配しているのか分からないと、対策が立てられません。家族のことを聞いてはいけないのですか?
家族の職業や家庭の事情を聞く必要はありません。聞くのは「会社のことで、どんな点が心配と言われているか」です。給料、休み、会社の将来といった心配がわかれば、会社として出せる材料が決まります。家族が誰で、どんな人かを知らなくても、対応はできます。
Q. 本人が「家族に説明してほしい」と言ってきました。会社から家族に電話してもよいですか?
本人の希望であれば、まったくだめというわけではありません。ただ、電話だと話がずれやすく、会社が一方的に説得しているように受け取られることもあります。まずは書面の資料を渡し、それでも話を聞きたいということであれば、本人も同席する形で、会社に来てもらうのが無難です。
Q. 家族の反対を理由に、本人が「入社日を半年遅らせたい」と言ってきました。
会社の事情で受けられるかどうかを、正直に伝えてよい場面です。欠員を早く埋めたいなら、その事情を説明し、どこまでなら待てるかを示します。待つと決めた場合は、新しい入社日を書面で確認し、その間の連絡の取り方も決めておきます。
Q. 家族の反対があるような人は、入社しても長続きしないのではないかと心配です。
そう決めつけるのは早いと考えます。家族の心配が、会社をよく知らないことから来ているなら、入社後に職場の様子が伝われば、むしろ家族が応援する側に回ることもあります。大切なのは、入社後の最初の数か月、本人が困ったときに相談できる人を決めておくことです。
Q. 内定承諾書をもらっているので、辞退は認めないと言ってもよいですか?
承諾書があっても、本人の辞退を会社が強く拒むことは、トラブルのもとになりかねません。内定や辞退の法的な扱いは、事情によって判断が分かれるため、会社だけで決めつけず、専門家に確認してください。実務としては、無理に引き止めるより、気持ちよく送り出すほうが、地域での評判を守ることにもつながります。
まとめ
- 家族の反対の多くは「会社のことがわからない」心配から来ている
- 会社がやるべきことは家族の説得ではなく、本人と家族が判断する材料を本人に渡すこと
- 家族の職業や家庭の事情は聞かない。聞くのは「会社のことで、どんな点が心配か」
- 会社案内・労働条件の書面・入社後の予定など、家族が読める資料を渡す。弱みも正直に書く
- 家族との面会は本人の希望・同意がある場合に限り、説得ではなく会社を見てもらう場にする
- 条件の上乗せは慎重に。変える場合は書面で示す
- 回答期限は本人と相談して決め、辞退になっても丁寧に受け止める。内定取消しや辞退の扱いで迷うときは専門家に確認する
- 内定前から、本人が家族に話しやすい材料を渡しておくと、反対を防ぎやすい
内定後に家族の反対があったとき、どこまで会社が関わるか、本人にどんな資料を渡すかなど、迷うことがあれば、お気軽にご相談ください。御社の状況に合わせて、一緒に整理します。
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