2026年8月25日
「採る」より安い定着策——1on1面談を月1回やってみる
新しい求人を出せば、数万〜数十万円の広告費がかかります。面接に立ち会う時間、採用後の教育コストまで含めれば、1人採用するのに数十万円規模のお金と時間が動きます。
一方で、いま働いている社員が辞めずに続けてくれるための施策には、驚くほどコストがかかりません。月1回、30分の1on1面談。かかるのは経営者の時間だけです。
「採る」ためのコストと、「辞めさせない」ためのコストを比べたとき、後者のほうがはるかに安いという事実は、意外と見落とされています。
採用コストと1on1のコストを並べてみる
採用ミス1件でいくら損するかで解説した通り、中小企業が一般職を1人採用・定着させるまでの総コストは、求人費・面接工数・教育コスト・退職後の穴埋めまで含めると50〜120万円以上になることがあります。
これに対して、月1回30分の1on1面談にかかるコストを試算してみます。経営者・管理者の時給換算を3,000〜4,000円程度と仮定すると、次のようになります。
| 項目 | コスト |
|---|---|
| 1回30分あたりのコスト(1人あたり) | 1,500〜2,000円程度 |
| 特別な準備・ツール | 基本的に不要 |
| 年間コスト(月1回×12回、1人あたり) | 1.8万〜2.4万円程度 |
1人の早期離職を防げれば、それだけで新規採用1人分のコスト(50〜120万円)が浮く計算になります。1on1面談そのものが離職をゼロにするわけではありませんが、コストの非対称性を見れば、優先して投資すべきなのはどちらかは明らかです。
なぜ月1回の1on1が効くのか
離職は、ある日突然決まるわけではないことがあります。不満や違和感が積み重なり、相談できないまま我慢し続けた末に、退職という結論だけが伝えられる、というプロセスをたどることがあります。
1on1面談が効くのは、この「積み重なる前」の段階で気づけるからです。
- 日常業務の会話では出てこない「実は困っていること」を拾える
- 上司から「気にかけている」というメッセージが伝わる
- 小さな不満が大きくなる前に、対処する時間的余裕が生まれる
逆に言えば、1on1がない職場では、経営者が異変に気づくのは「相談」ではなく「退職の申し出」というタイミングになりがちです。そのときにはもう、引き止める材料がないことがあります。
「定着しない会社」の総論とは別の話
定着しない会社に共通する3つの習慣では、入社直後の関わり方・期待値の伝え方・相談相手の有無という3つの習慣を扱いました。あの記事は「なぜ辞めるのか」という全体構造の話です。
本記事はその中の一手段である「相談できる機会をどう仕組み化するか」に絞り込み、1on1面談という具体的な施策の始め方を解説します。総論を読んでどこから手をつければいいかわからない方は、まず1on1から始めるのが取り組みやすいはずです。
なお、定着しない会社に共通する3つの習慣では、入社直後の新人向けに「月に1〜2回、10分程度」の声かけを提案しています。これは入社初期の不安を早期に拾うための軽い確認です。本記事が扱う月1回30分の1on1は、入社時期を問わず既存社員全体を対象にした、もう少し腰を据えた面談を想定しています。対象・目的が異なるため、新人には両方を組み合わせて構いません。
月1回1on1の始め方
頻度:まずは月1回、30分で十分
毎週やろうとすると続きません。最初のハードルを下げるなら、月1回・30分から始めるのが現実的です。慣れてきたら頻度を上げればよく、最初から完璧な運用を目指す必要はありません。
時間:業務の合間ではなく、専用の時間を確保する
「手が空いたときに話そう」では実施されないまま終わります。カレンダーに固定枠として入れ、他の予定より優先させることが継続のコツです。
話す内容の型:3つの質問から始める
何を話せばいいかわからないという声も聞かれます。最初は次の3つで十分です。
- 最近、仕事で困っていることはあるか——業務上の障害を拾う質問
- 今の仕事で、やりがいを感じている部分はあるか——モチベーションの所在を確認する質問
- 会社に対して、言いたいけれど言えていないことはあるか——不満の芽を早期に拾う質問
評価面談ではないので、点数をつけたり指導したりする場にしないことが大切です。聞き役に徹するだけで、社員側の受け止め方は変わりやすくなります。
よくある失敗:説教の場になってしまう
1on1のつもりが「最近の仕事ぶりについて」という切り出しから始まり、気づけば注意・指導の時間になっているケースがあります。これでは社員は本音を話さなくなり、1on1自体が「呼び出されると気まずい時間」になってしまいます。
1on1の目的は評価ではなく、社員の状態を早期に把握することです。指導したいことがあれば、それは別の機会に分けるほうが、1on1本来の効果を保てます。
うちの採用、どこが間違ってる?——読みながらわかるセルフ診断では、定着に関わる社内の運用に抜けがないかも確認できます。
まとめ
- 新規採用には50〜120万円規模のコストがかかるが、月1回30分の1on1面談は数万円規模で始められる
- 1on1が効くのは、不満が積み重なって離職に至る前の段階で気づけるから
- 定着しない会社の総論的な対策とは別に、1on1は今日から始められる具体的な一手段
- 頻度は月1回・30分から、話す内容は「困りごと・やりがい・言えていないこと」の3つの質問で十分
- 評価・指導の場にしてしまうと逆効果になるため、聞き役に徹することが継続のコツ
「採る」コストに比べれば、「辞めさせない」コストは驚くほど小さくて済みます。まずは月1回、30分の予定をカレンダーに入れることから始めてみてください。
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