2026年11月2日

応募者のSNS、黙って調べていませんか?採用で守りたい線引き

地方の事務所で、50代の経営者がスマートフォンを手にしたまま応募書類を前に考え込んでいる様子

履歴書が届いたら、まず名前で検索してみる。FacebookやInstagramが見つかれば、どんな投稿をしているのか、少しのぞいてみる。社員30人ほどの会社で採用を社長ご自身が担っていると、こうした「下調べ」をしたことがある方は少なくないと思います。一度の採用が会社に与える影響が大きいからこそ、少しでも人となりを知っておきたいという気持ちは自然なものです。

ただ、本人に何も伝えずに調べていると、知るつもりのなかった情報まで目に入り、後から「あの判断は公正だったか」と説明に困ることがあります。

結論から書きます。応募者本人が公開しているSNSを見ること自体は、直ちに違法とされるものではありません。ただし、「黙って」「範囲を決めずに」「見たものを何でも判断材料にする」が重なると、問題になりやすくなります。 調べるのであれば、目的と範囲を先に決め、応募者に事前に伝えておくのがおすすめです。この記事では、法令の考え方、黙って調べることで起きやすいこと、調べる前に決めておく4つのこと、応募者への伝え方を順に整理します。

応募者のSNSを見ることは、法令でどう扱われているか

採用選考で応募者の情報を集めるときの考え方は、主に職業安定法とその指針、個人情報保護法に示されています。SNSに当てはめると、おおむね次のように整理できます。

ルール 求めていること SNSに当てはめると
職業安定法・指針(目的と範囲)  → 目的を明らかにし、業務の目的の達成に必要な範囲で個人情報を集める  → 「何のために見るのか」を決め、その範囲を超えて見ない
指針(集め方)  → 本人から直接、本人の同意の下で本人以外から、または本人が公開している情報を集めるなど、適法かつ公正な手段による  → 本人が公開している投稿を見ることは、手段の一つとして挙げられている
指針(集めてはならない情報)  → 社会的差別の原因となるおそれのある事項、思想・信条、労働組合への加入状況は、原則として集めない  → 投稿から読み取れても、選考の材料にしない
個人情報保護法(利用目的)  → 個人情報を取得したら、利用目的をあらかじめ公表しているか、本人に通知・公表する  → 「選考の参考にSNSを見ることがある」と事前に示しておく

ポイントは、「公開されている情報だから自由に使ってよい」わけではないということです。指針では、本人が公開している情報を集めることが手段の一つとして挙げられている一方で、目的を明らかにすること、必要な範囲に限ること、差別につながる情報を集めないことが、あわせて求められています。

また、個人情報保護法では、本人が公開している情報であれば、本人の同意がなくても取得できる場面があります。それでも職業安定法の指針では、思想・信条などの情報は原則として集めてはならないとされています。採用の場面では、より慎重なルールが重ねてかかっていると考えておくと安全です。

個人情報保護法は、会社の規模にかかわらず個人情報を扱う事業者に適用されます。「小さな会社だから関係ない」とは考えないほうがよいでしょう。具体的な運用が自社の場合に問題ないかは、社会保険労務士などの専門家に確認してください。

黙って調べると、何が起きやすいか

SNSを見ること自体より、「本人が知らないうちに」「範囲を決めずに」調べることのほうに、問題の種があります。

起きやすいこと 具体的には 困るのはいつか
見てはいけない情報が目に入る  → 宗教、支持政党、家族の事情、出身地、病気や通院などの投稿  → 不採用にしたとき、その情報が影響していないと説明しにくい
別人と取り違える  → 同姓同名のアカウントや、本人のものか確かめようのない匿名アカウントを本人と思い込む  → 事実と違う情報で判断していたと後でわかったとき
目的を説明できない  → 「なんとなく人柄を見たかった」では、必要な範囲かどうかを示せない  → 応募者から問い合わせを受けたとき
小さな町でうわさになる  → 「あの会社は応募するとSNSを調べるらしい」という話が広がる  → 次の募集で応募が集まりにくくなったとき
面接で口をすべらせる  → 「インスタ見ましたよ」と軽く言ってしまう  → 応募者が不信感を持ち、辞退につながったとき

とくに気をつけたいのは、一度目に入った情報は「見なかったこと」にできないという点です。厚生労働省は「公正な採用選考」の考え方として、宗教や支持政党、人生観、尊敬する人物、購読している新聞・雑誌など、思想・信条にかかわることを把握しないよう求めています。面接では聞かないよう気をつけていても、SNSを広く見て回れば、同じ情報を自分から集めてしまうことになりかねません。

面接で聞いてはいけない質問については、知らないと危ない。求人・面接で経営者がやりがちな法律NG行為で整理しています。

また、匿名のアカウントを「これは本人だろう」と推測して見るのは避けたほうが安全です。本人のものと確かめられない情報で判断すると、事実と違う内容で応募者を評価してしまうおそれがあります。

地方の会社で迷いやすい3つの場面

人と人の距離が近い地域では、自分から調べるつもりがなくても、SNSの情報が向こうから入ってくることがあります。

知人から「あの人のSNS、見た?」と言われる

応募者と共通の知人がいるのは、地方ではよくあることです。善意で教えてくれた話でも、その情報を選考の材料にすれば、本人の知らないところで集めた情報で判断したことになります。「ありがとう。ただ、選考は本人と話して決めるようにしているから」と、受け流す姿勢を決めておくと迷いません。

社員が勝手に調べて報告してくる

面接に同席した社員や、応募者を知っている社員が「調べてみたら、こんな投稿がありました」と報告してくることもあります。誰が、何のために、どこまで見てよいのかを決めていないと、社内で歯止めがききません。調べる場合も、見る人は決まった人だけにしておくのが安全です。

応募者が自分からSNSを教えてくれる

「お店のInstagramを担当していました」「仕事の作品を載せています」と、応募者が自分から示してくれることもあります。この場合は、本人が選考で見てもらうことを前提に示した情報です。ただ、それでも見る目的は「示してくれた仕事の内容を確かめる」ことに限り、過去の私的な投稿までさかのぼって見るのは控えたほうがよいでしょう。

調べる前に決めておく4つのこと

それでもSNSを確認したい事情があるなら、調べる前に次の4つを決めておきます。順番は「決めてから見る」です。

ステップ1:何を確かめるために見るのかを1つに絞る

「人柄を知りたい」では範囲が広すぎます。たとえば「応募書類に書かれた仕事の実績を、本人が公開している発信で確かめる」のように、業務に関係する目的に絞ります。目的を言葉にできないなら、そもそも見る必要がないのかもしれません。

ステップ2:見る範囲と見ない範囲を決める

見てもよい範囲の例 避けたい行為
本人が応募書類や面接で示したアカウント  → 同姓同名のアカウントを片っ端から見る
本人と確認できる実名アカウントの公開投稿  → 本人のものか確かめられない匿名アカウントを推測で見る
目的に関係する仕事の発信  → 非公開アカウントにフォロー申請をする
—  → 知人のアカウントを借りて、非公開の投稿を見る
—  → 家族や友人の投稿までたどって見る

非公開の投稿を、別の人のアカウントを使って見るような方法は、「適法かつ公正な手段」とは言いにくくなります。迷ったら見ない、を基本にしてください。

ステップ3:応募者に事前に伝える

募集要項や応募フォーム、面接の案内などに、SNSを確認することがある旨と、その目的を書いておきます。文例は次の章で紹介します。事前に伝えておけば、応募者は何が見られるかを知ったうえで応募でき、会社としても目的を説明しやすくなります。

ステップ4:判断に使わない情報と、記録の扱いを決める

見た結果をどう扱うかも、先に決めておきます。

  • 宗教、支持政党、家族、出身地、健康にかかわる情報は、目に入っても記録せず、判断に使わない
  • メモに残すのは、決めた目的に関係する事実だけにする
  • 見る人を社長など決まった人に限り、社内で共有する範囲も決める
  • 不採用になった人の記録を、いつ・どう処分するか決めておく

面接の評価を決まった項目で記録する方法は、面接評価シートを作って「なんとなく採用」を卒業するも参考になります。評価項目が決まっていれば、SNSで見た印象に引っ張られにくくなります。

応募者への伝え方:文例

事前に伝えるときは、短くても「何を」「何のために」見るのかがわかる書き方にします。

募集要項や応募フォームに書く場合の例

選考にあたり、応募書類に記載いただいた業務の実績を確認する目的で、ご本人が公開しているSNSやウェブ上の情報を参照することがあります。それ以外の目的では使用しません。

面接で触れる場合の例

応募書類に書いていただいたお店のInstagram、拝見しました。投稿の企画はどのように考えていたのか、教えていただけますか。

面接で触れるなら、仕事に関係する内容について、本人に話を聞くきっかけとして使うのがおすすめです。私的な投稿の内容に触れると、「そんなところまで見られていたのか」と受け取られかねません。

文面が自社の実際の運用に合っているか、利用目的の示し方として足りているかは、専門家に確認してから使ってください。

そもそも、SNSを見る必要はあるか

ここまで調べる場合の手順を書いてきましたが、「見ない」という選択も十分にあり得ます。SNSで知りたいことの多くは、別の方法のほうが確実に確かめられるからです。

SNSで知りたくなること より確実な確かめ方
人柄や話し方  → 面接で、具体的な経験を質問して聞く
職場になじめそうか  → 職場見学や、社員と話す時間をつくる
経歴が本当か  → 本人の同意を得て、前の職場に事実を確認する
仕事の実力  → 実際の作品や成果物を見せてもらう、簡単な実技をお願いする

SNSの投稿は、本人が見せたい一面であったり、昔の投稿であったりします。面接で直接聞くほうが、今の本人に近い情報が得られることも多いはずです。前の職場への確認を考える場合は、「前職に確認する」という選択肢——中小企業のリファレンスチェック入門で進め方と注意点を整理しています。

選考を始める前のチェックリスト

  • [ ] SNSを見る目的を、業務に関係する1つに絞った
  • [ ] 見る範囲(本人が示したアカウント、本人と確認できる公開投稿)を決めた
  • [ ] 匿名アカウントの推測や、非公開投稿の閲覧はしないと決めた
  • [ ] 募集要項や応募フォームに、SNSを確認することがある旨と目的を書いた
  • [ ] 宗教・支持政党・家族・出身地・健康の情報は、記録せず判断に使わないと決めた
  • [ ] SNSを見る人を決め、社内で共有する範囲を決めた
  • [ ] 知人や社員から入ってきた情報の扱い方を決めた
  • [ ] 不採用になった人の記録の処分方法を決めた
  • [ ] 「見ない」選択肢も含めて、本当に必要かを考えた

よくある疑問

Q. 名前で検索するくらいなら、問題ありませんか?
検索すること自体が直ちに問題になるわけではありません。ただ、検索結果には同姓同名の別人や、本人と関係のない情報も混ざります。見る目的と範囲を決めずに検索すると、判断に使うべきでない情報まで目に入りやすくなります。検索する場合も、事前に伝えたうえで、決めた目的の範囲にとどめるのが安全です。

Q. 見てしまった投稿に、政治や宗教に関する内容がありました。
その情報は記録せず、選考の判断にも使わないでください。評価は、あらかじめ決めた項目にそって面接などで確かめた内容で行います。今後同じことが起きないよう、見る範囲を決めておくことをおすすめします。

Q. 応募者に「SNSを教えてください」と頼んでもいいですか?
仕事に関係する発信(作品やお店のアカウントなど)を見せてほしい、という頼み方であれば、目的が明確です。一方で、私的なアカウントの提出を求めたり、提出しないと選考に進めないようにしたりするのは、応募者に負担をかけるうえ、必要な範囲を超えるおそれがあります。扱いに迷う場合は専門家に確認してください。

Q. 採用したあと、社員のSNSの使い方が心配です。
入社後のSNSの扱いは、選考とは別の論点です。会社の秘密や取引先の情報を投稿しないといったルールは、就業規則や社内のルールとして入社時に説明しておくと安心です。私生活の投稿をどこまで会社が問題にできるかは状況によって判断が分かれるため、具体的なケースは専門家に確認してください。

Q. SNSで問題のある投稿を見つけたら、不採用にしてもいいですか?
業務に関係する重大な問題なのか、私生活の一面にすぎないのかで、考え方が変わります。また、その投稿が本当に本人のものか、いつの投稿かも確かめる必要があります。気になる点があれば、決めつけずに面接などで本人に確認する機会を持つほうが、公正な判断につながると考えます。判断に迷うケースは専門家に相談してください。

まとめ

  • 応募者本人が公開しているSNSを見ること自体は、直ちに違法とされるものではない
  • ただし、目的を明らかにし、必要な範囲に限り、差別につながる情報を集めないことが求められている
  • 黙って範囲を決めずに調べると、見てはいけない情報が目に入り、判断の公正さを説明しにくくなる
  • 調べるなら「目的を絞る → 範囲を決める → 事前に伝える → 判断に使わない情報と記録の扱いを決める」の順で
  • 匿名アカウントの推測や、非公開投稿の閲覧は避ける
  • 知りたいことの多くは、面接・職場見学・本人の同意を得た確認など、別の方法のほうが確実に確かめられる

応募者の情報をどこまで集めてよいか、募集要項にどう書けばよいかなど、選考の進め方で迷ったときは、お気軽にご相談ください。御社の状況に合わせて一緒に整理します。

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