2026年11月3日

「うちの子を頼む」と言われたら。縁故採用の受け方と角の立たない断り方

地方の事務所で、50代の経営者が知人から届いた紹介の封筒を手に、どう返事をするか考えている様子

長年の取引先の社長から、「うちの甥っ子が仕事を探していてね。おたくで使ってもらえないだろうか」と声をかけられる。地元の会合で、昔からお世話になっている方に「孫が戻ってくるから、よろしく頼むよ」と言われる。社員30人ほどの地方の会社を経営していると、こうした「縁故」の話は、求人を出していなくても向こうからやってきます。

ありがたい話である一方で、「断ったら付き合いに響くのでは」「採ってみて合わなかったら、もっと気まずいのでは」と、返事に迷う社長も多いのではないでしょうか。

結論から書きます。縁故採用そのものは、民間企業では法律で禁じられているわけではありません。ただし、「紹介だから採る」のではなく、「紹介は応募の入口、選考はほかの応募者と同じ」と先に決めて、最初に紹介者へ伝えておくことが大切です。 そうしておけば、採用しても見送っても、紹介者との関係はこじれにくくなると考えます。この記事では、縁故採用の考え方、受ける前に決めておく3つのこと、紹介を受けたあとの進め方、角の立たない断り方を、文例つきで順に整理します。

縁故採用は、どう考えられているか

まず、縁故採用がルールの上でどう扱われているかを整理しておきます。

考え方 内容 縁故採用に当てはめると
採用の
自由
会社は、法律などの特別な制限がない限り、誰をどんな条件で雇うかを原則として自由に決められる、とされている(最高裁の判例) 縁故で人を採ること自体を禁じる法律は、民間企業にはない
採用の
自由の
限界
性別を理由とする差別など、法律で禁じられている扱いはできない 「紹介だから」の前に、法律で禁じられた差別になっていないかを確かめる
公正な
採用選考
(厚生労働省)
応募者に広く門戸を開き、本人の適性・能力に基づいた基準で選考する。家族の職業など、本人に責任のない事項を採用基準にしない 「誰の紹介か」「親が誰か」で採否を決めず、本人の適性・能力で判断する

ポイントは、縁故採用が「違法かどうか」よりも、「選考の中身が公正かどうか」が問われるということです。厚生労働省は「公正な採用選考」の考え方として、本人の適性・能力に関係のない事項、たとえば家族の職業や地位、生活環境などを把握したり、採用基準にしたりしないよう求めています。

縁故の話には、「父親は〇〇の役員で」「家は△△の近くで」といった、本人の能力とは関係のない情報がついてきがちです。紹介を受けること自体は問題ではなくても、そうした情報を選考の材料にしないよう気をつける必要があります。具体的な扱いに迷う場合は、社会保険労務士などの専門家に確認してください。

縁故採用がうまくいく場合、こじれる場合

縁故採用は、うまくいけば会社にとって心強い採用になります。紹介者が本人の人柄をよく知っていて、地元に根づいて長く働いてくれることも期待できます。一方で、進め方を誤るとこじれやすいのも事実です。

うまくいきやすい進め方 こじれやすい進め方
受けるとき 「ほかの方と同じように選考します」と最初に伝える 「わかりました、任せてください」と、その場で引き受ける
選考 応募書類と面接で、ほかの応募者と同じ基準で見る 面接を省く、または形だけにする
条件 給与・仕事内容・試用期間などを、ほかの社員と同じ基準で決める 紹介者の顔を立てて、条件を特別扱いする
結果の伝え方 本人に直接伝え、紹介者にはお礼と結果だけを伝える 本人より先に紹介者へ伝える、または紹介者を通じて伝える
入社後 ほかの社員と同じように育て、同じ基準で評価する 「〇〇さんの紹介だから」と、注意すべきことを注意しない

こじれる原因の多くは、「紹介者の顔を立てる」ことを優先して、選考や条件を特別扱いしてしまうことにあります。特別扱いは、入社後に本人を孤立させたり、ほかの社員の不満につながったりしかねません。

受ける前に決めておく3つのこと

縁故の話を持ちかけられたとき、その場で「わかりました」と返事をする前に、次の3つを決めておきます。できれば、紹介の話が来る前から社内のルールとして決めておくと、毎回迷わずに済みます。

1. 紹介は「応募の入口」、選考はほかの応募者と同じ

紹介を受けた人も、応募書類を出してもらい、面接を受けてもらいます。見る項目も、合否の基準も、ほかの応募者と同じです。面接の評価を決まった項目で記録しておくと、「紹介だから甘く見た」「紹介だから厳しく見た」というぶれを防げます。評価項目の作り方は、「感覚で採用してミスマッチになる」——面接評価シートを作って「なんとなく採用」を卒業するで紹介しています。

2. 条件は、ほかの社員と同じ基準で決める

給与、仕事内容、勤務時間、試用期間などの条件は、ほかの社員と同じ基準で決めます。紹介者から「給料は少し色をつけてやってほしい」と頼まれても、その場で約束はしません。労働条件は、採用する人に書面などで示すことが法律で求められています(具体的な明示事項は専門家に確認してください)。紹介の有無で条件が変わると、社内で説明がつかなくなります。

3. 結果は本人に直接、紹介者にはお礼と結果だけ

合否の連絡は、本人に直接伝えます。紹介者には、紹介してくれたことへのお礼と、結果だけを伝えます。面接で本人が話した内容や、評価の中身まで紹介者に伝えるのは控えたほうがよいでしょう。本人にとっては、自分の選考の中身が知人に伝わることになるからです。

この3つを、紹介を受けた最初の段階で、紹介者に伝えておきます。

紹介者に最初に伝えるときの文例

お声がけいただき、ありがとうございます。ぜひ一度、お話を聞かせてください。ただ、社員にも同じようにしてもらっているので、応募書類を出していただいて、面接はほかの方と同じように受けていただく形になります。結果はご本人に直接お伝えしますので、その点だけご了承いただけますか。

最初にこう伝えておけば、あとで見送ることになっても「最初に言われていたとおりだ」と受け止めてもらいやすいでしょう。

紹介を受けたあとの進め方

紹介を受けたあとは、次の順番で進めます。

順番 やること ポイント
① 本人に
直接連絡する
紹介者を通さず、本人と連絡を取る。本人に働く意思があるかを、まず確かめる
② 応募書類を
出してもらう
履歴書など、ほかの応募者と同じ書類を出してもらう
③ 面接をする 同じ質問項目、同じ評価シートで面接する。紹介者や家族のことは話題にしない
④ 職場を見てもらう 仕事の様子を見てもらい、本人にも合うかどうかを考えてもらう
⑤ 本人に
結果を伝える
採用でも見送りでも、本人に先に、直接伝える
⑥ 紹介者に
お礼と結果を伝える
本人に伝えたあとで、お礼と結果だけを伝える

とくに大切なのは①です。縁故の話は、紹介者の熱意が先にあって、本人はそれほど乗り気でない、ということもあります。本人と直接話してみると、「親に言われて来ただけで、本当は別の仕事がしたい」という本音が出てくることもあります。本人の意思を確かめないまま話を進めると、採用しても長続きしにくいことがあります。

③の面接では、紹介者との関係や家族のことを話題にしないよう気をつけます。場をなごませるつもりで「お父さんはお元気ですか」と聞いたつもりでも、家族のことを尋ねることになります。面接で聞かないほうがよいことは、知らないと危ない。求人・面接で経営者がやりがちな法律NG行為も参考にしてください。

角の立たない断り方

縁故採用でいちばん悩むのが、断るときです。断り方は、どの段階で断るかによって変わります。共通するのは、理由を「会社の事情」や「選考の基準」に置き、本人の人柄を否定しないことです。

場面1:今は人を募集していない

求人を出していないときに話が来た場合は、無理に受ける必要はありません。

ありがとうございます。せっかくのお話なのですが、今は募集をしていない時期でして、すぐにお受けできる仕事がないんです。次に募集をするときには、ご本人にも応募していただけるよう、お知らせしますね。

「次に募集するときは知らせる」と約束したら、実際に知らせます。約束を守ることで、断っても関係を保ちやすいはずです。

 

場面2:選考の結果、見送ることになった

最初に「ほかの方と同じように選考します」と伝えてあれば、見送りの連絡も伝えやすいでしょう。まず本人に伝えます。

本人への文例

先日は面接にお越しいただき、ありがとうございました。慎重に検討しましたが、今回は、いま募集している仕事の内容とのつながりを考え、採用を見送らせていただくことになりました。ご期待に沿えず申し訳ありません。〇〇さんのこれからのご活躍をお祈りしています。

紹介者への文例

先日はご紹介いただき、ありがとうございました。ご本人とお会いして、しっかりお話を聞かせていただきました。ほかの方と同じように検討した結果、今回はご縁がなかったのですが、とても誠実な方だと感じました。せっかくのお話をいただいたのに申し訳ありません。

紹介者には、評価の細かい中身ではなく、結果と感謝を伝えます。不採用の連絡そのものの考え方は、「不採用の連絡」が会社の評判を作っている——断り方が採用力を左右することがあるで詳しく書いています。

 

場面3:そもそも受けたくない

紹介者との関係や、本人についての評判から、「最初から受けたくない」と感じる場合もあるでしょう。ただ、うわさや評判だけで判断するのは避けたいところです。本人の適性・能力とは関係のない情報で判断することになりかねないからです。

受けるかどうかに迷うときは、場面1のように「今は募集していない」と正直に伝えるか、「応募はほかの方と同じように受けていただく形になります」と伝え、通常の選考の中で判断するのが無難です。

断るときに避けたいこと

  • 返事を先延ばしにする(待たせるほど、断りにくく、相手も納得しにくくなる)
  • 「上が反対していて」など、事実と違う理由をつける
  • 本人より先に、紹介者に結果を伝える
  • 面接での本人の受け答えを、紹介者に細かく話す

 

採用したあとに気をつけること

縁故で採用した場合も、入社後はほかの社員と同じように扱います。

  • 仕事の教え方、評価の基準、注意の仕方を、ほかの社員と変えない
  • 紹介者に、本人の勤務の様子を細かく報告しない(聞かれても「元気に頑張っていますよ」くらいにとどめる)
  • 本人に「〇〇さんの紹介だから、辞めないでね」とプレッシャーをかけない
  • 合わないと感じたときも、ほかの社員と同じ手順で面談し、本人と話し合う

縁故で入った社員が、周りから「特別扱いされている」と見られると、本人も職場で居心地が悪くなります。同じように扱うことは、本人を守ることにもつながります。

なお、社員が友人や知人を紹介する「社員紹介」の仕組みについては、「求人広告ゼロ」で採用している会社がやっていること——社員紹介採用の始め方で整理しています。社員紹介は会社が仕組みとして募るもの、縁故は外から頼まれて受けるもの、という違いがありますが、「選考は同じ基準で」という考え方は共通です。

縁故の話が来たときのチェックリスト

  • [ ] その場で「わかりました」と引き受けず、選考の進め方を先に伝えた
  • [ ] 「応募書類を出して、ほかの方と同じように面接を受けてもらう」と紹介者に伝えた
  • [ ] 本人に直接連絡し、本人に働く意思があるかを確かめた
  • [ ] 面接はほかの応募者と同じ質問項目・評価シートで行った
  • [ ] 紹介者との関係や、家族のことを話題にしなかった
  • [ ] 給与・仕事内容・試用期間などの条件を、ほかの社員と同じ基準で決めた
  • [ ] 結果は本人に先に、直接伝えた
  • [ ] 紹介者にはお礼と結果だけを伝え、評価の中身は話さなかった
  • [ ] 入社後も、ほかの社員と同じように扱うと決めた

よくある疑問

Q. 縁故採用は、違法ではないのですか?
民間企業の場合、縁故で人を採ること自体を禁じる法律はありません。会社には、誰をどんな条件で雇うかを原則として自由に決められる「採用の自由」があるとされています。ただし、性別を理由とする差別など法律で禁じられた扱いはできず、厚生労働省は、本人の適性・能力に基づいて選考するよう求めています。自社の進め方に不安がある場合は、専門家に確認してください。

Q. 取引先の社長からの紹介で、断ると取引に響きそうです。
断りにくい気持ちはよくわかります。だからこそ、最初の段階で「ほかの方と同じように選考します」と伝えておくことが大切です。最初にそう伝えてあれば、見送りになっても「約束どおりに選考してくれた」と受け止めてもらいやすいでしょう。採用を約束してから見送るほうが、関係はこじれやすいと考えます。

Q. 紹介者に、面接での様子を聞かれました。どこまで話してよいですか?
「お会いして、しっかりお話を聞かせていただきました」と、結果とお礼を伝えるくらいにとどめるのが無難です。面接で本人が話したことや、評価の細かい中身は、本人が知らないところで知人に伝わることになります。本人の情報の扱いに迷う場合は、専門家に確認してください。

Q. 縁故で採用した人だけ、試用期間を長くしてもいいですか?
おすすめしません。紹介の有無で試用期間などの条件を変えると、本人にとっては不利な特別扱いになり、社内でも説明がつかなくなります。条件は、ほかの社員と同じ基準で決めるのが基本です。試用期間の決め方や扱いは、就業規則との関係もあるため、専門家に確認してください。

Q. 社長の親族を採用する場合も、同じ考え方ですか?
親族を後継者として迎える場合などは、この記事の「外から頼まれる縁故」とは事情が異なります。それでも、仕事内容や給与の決め方をほかの社員にも説明できるようにしておくことは、職場の納得感を保つうえで大切です。

まとめ

  • 縁故採用そのものは、民間企業では法律で禁じられているわけではない
  • ただし、本人の適性・能力に基づいて選考し、家族のことなど関係のない情報を採否の材料にしないことが求められている
  • 受ける前に「紹介は入口、選考は同じ」「条件は同じ基準」「結果は本人に直接、紹介者にはお礼と結果だけ」の3つを決め、最初に紹介者へ伝える
  • 紹介を受けたら、まず本人に直接連絡し、本人に働く意思があるかを確かめる
  • 断るときは、理由を会社の事情や選考の基準に置き、本人の人柄を否定しない
  • 採用したあとも特別扱いせず、ほかの社員と同じように育て、評価する

縁故の話をどう受けるか、選考の進め方や断り方をどう決めておくかで迷ったときは、お気軽にご相談ください。御社の状況に合わせて、一緒に整理します。

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